明日をつくるつながり

これからのつながり

農業盛り上げ隊・GRow切田澄礼さん・坪山智香さん・吉越萌さん

これまでのコミュニケーションのあり方にとらわれず、農業をもっと身近なものに。

 頑張って作った計画が、思わぬ事態によって予定変更に。そのようなことが、人生にはたびたび起こります。農業と若者をつなぐため、幅広く活動をしているGRowも、コロナ禍で大きく方向転換をしなければなりませんでした。

 GRowのメンバーは、大学院生と大学生の3名。リーダーの切田澄礼さんが、2019年に滋賀県の『大津・女性ビジネスプランコンテスト』で、グランプリを獲得。そのプランを実行するために作られました。切田さんの強い思いに共感した坪山智香さんと吉越萌さんが集まり、「さぁ始めよう!」というその時に、新型コロナウイルスの感染拡大により、当初の予定を変更することになってしまいました。そもそも、どのようなプランを進めようとしていたのでしょうか。

切田「農業に関わる機会のない人たちが、農業について知り、農業体験に行き、農家さんとのコミュニケーションをとっていくことで、農家さんとつながるサイクルを作り出すことを目的として企画を立ち上げました。農業は農地があって成り立つもの。ですから、地域ごとに“小さな循環”を作るイメージで、成功例を横展開していくプランを立てました」

 自粛期間によって、体験することも、会って関係性を高めることも制限されてしまったGRowと農家の方たち。しかし、切田さんは、会うことと知ることは、オンラインで実現できるのではないかと考えたそうです。

切田「農業の魅力を知っていただくには、食べていただくことが一番。農家さんの作った農産物を販売しながら、オンラインで交流ができるマルシェを作りました」

 何度も感染のピークが訪れ、その度に長引いた自粛期間。しかし、GRowのメンバーは、2020年の秋から現在(2021年の秋)まで、この『ONLINE × FARMERS MARKET』というオンラインイベントを軸に、若者と農家をつなぐ活動を継続しています。

切田「野菜と聞くと親しみを持てるのに、農業と聞くとどこか縁遠いという問題を解決することも、私たちのミッションです。たとえ、部分的にできないことが出てきても、目標達成のために何か方法はないかと探りました。その結果、デジタルでも道は拓けると行動し、挑戦を続けることができました」

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Zoom取材中のGRowメンバー(左から切田さん、坪山さん、吉越さん)。3人それぞれが農業に対する自身の未来図をしっかり描いていて、そのためにどのようなコミュニケーションが必要になるのかを真剣に考えていました。

コロナ禍をきっかけに、オンラインの活用で道を切り拓く。

 アイデアを実行するためには、一定以上の資金が必要になるもの。『ONLINE × FARMERS MARKET』も例外ではなく、人々を集めてつなぐソフトやWebサイトに加え、野菜を販売するための在庫を置く倉庫や発送費用が必要になりました。そこで彼女たちが最初に着手したのが、クラウド・ファンディングの活用でした。

切田「コンテストでグランプリ獲得した時は、大津駅前でマーケットを出展できる話がありました。いま思うと、場所の確保も告知も誰かがやってくれますし、お買い上げになった野菜は、買った人が持って帰ってくれます。でも、オンラインでの活動は、自分たちだけで行うもの。とりあえず実行に移して様子をみようと2020年の11月に第一回『ONLINE × FARMERS MARKET』に向けて、クラウド・ファンディングを実施しました」

 何もかもが初めての経験で、支援金の募集期間が終了するまで、ずっとドキドキしっぱなしだったと話すGRowのメンバーたち。しかし、丁寧な説明や、SNSでの広報を展開し、目標金額を達成することができました。
 GRowは2020年11月に第一回の『ONLINE × FARMERS MARKET』を開催。2021年9月末までに、四回もの開催を実現しています。参加した人たちの反応はどのようなものだったのでしょうか。

坪山「農業に興味はあったものの、体験をしたことがない人が連続で参加してくれました。その人は、第三回の時に出展してくれた農家さんのところに、農業体験をしに行ったそうです。『楽しかった!』『面白さがわかる!』と感想を話してくれて、原案の目標を実現できたことが、何よりもうれしかったです」

吉越「私が食マネジメント学部に所属していることもあり、周囲には食に興味がある友人が大勢います。でも、農業となると、重たくとらえる人も多くて。少しでも体験してもらえたら、6次産業化をして製品を作っていくような領域もあることを知ってもらえます。今後も、可能性を持つ人たちと農業が出会う場所を提供し続けていきたいです」

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『ONLINE × FARMERS MARKET』には、各地からたくさんの方が参加されています。

 当初の計画とは違う形で目標に近付いていったGRowのメンバーですが、オンラインを活用していく中で、運営方針に変化が表れたと話します。

切田「オンラインで開催することで関東地方の方など、遠くの方々とつながることができました。地域性の違いも、とても面白いテーマ。当初案の小さな循環を基準にするのではなく、もうちょっと間口を広げて、大きな循環になっても良いと今は考えています」

ワクワクする気持ちが、世代やオンラインの壁を乗り越える原動力。

 真摯に仕事に取り組んできた人ほど、伝えたい思いが募るもの。ましてや、相手が次世代を担う若者なら、なおのことでしょう。GRowとつながっている農家の方々と若者は、一体どのような会話をしているのでしょうか。

切田「(企画中に)最初に語りかけるのは、やはり年長者で経験豊富な農家さんです。でも、話が始まるとすぐに、若い人たちはみんな、前のめりになっていきます。もちろん、質問も活発。最初の頃は、シーンと静まり返ったらどうしようと心配していましたが、今では盛り上がりすぎて長引くことの方が心配なくらいです」

 切田さんに参加者の内訳を聞いて驚きました。半数程度は最初から農業に興味がある人たちですが、残りは興味のない方や、食に興味があってくる方など、異なる入り口からくる方々とのこと。一体、どのような人たちが、何を目的に『ONLINE × FARMERS MARKET』に参加しているのでしょうか。

切田「知らない世界の話が聞けるからという参加者が多くいます。ワクワクしそうだからという、純粋な興味を持つ人たち。また、若いメンバーで構成されたGRowが、何かおもしろそうな挑戦をしているから覗きに来たという方が、世代に関係なくおられます」

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GRowが発信したデジタルでのコミュニケーションを通じて、実際に農業体験に参加された方も。

 オンラインイベントの運営で難しいところは、単発での成功ではなく、連続して成功させていくこと。そのためには、リピーター層の獲得を目指すことになりますが、GRowのメンバーは、自然にリピートしてくれる人が出てきたと話します。

切田「純粋にいろんな農家さんを紹介したくて、順番に登場していただきました。すると、今回は葉物野菜の農家さんだけど、次回は養蜂家さんというふうに、いろんな話が聞ける体制になっていました。何よりも、それぞれの農家さんの話がおもしろいから、リピートしたいと思う方々がでてきて、継続できているのだと思います」

 当初に描いていたアナログでの循環の環。それは実現できなかったけれども、不可能な部分をデジタルで補うことで、大きく動き始めることができました。坪山さんが話してくれた、「農業体験にまでアクションを起こした人」が、これからもたくさん生まれてきそうです。

私とあなたを農業がつなぐ。その循環を、これからも。

 『ONLINE × FARMERS MARKET』の開催は、GRowのメンバーにさまざまな気付きをもたらしたそうです。見えてきたのは、これからの地域と農業の課題。そして、人間の伴走者となるデジタルについての課題です。

坪山「なぜGRowに協力してくれるのか、農家さんに尋ねたことがあります。答えは、自分が住んで農業をしている土地について、もっと知ってほしいからというものでした。かつて農業が盛んだった地域ほど、少子高齢化が進んでいます。後継者もおられず、これからどうなるのかわからない中で、なんとかしようと、その土地の魅力を一生懸命に話される姿には、誰もが心を動かされます。これからも一助になれるようにがんばります」

吉越「クラウドファンディングで気付いたのですが、寄付のイメージが以前とは違います。単なるお金のやり取りではないことが見えてきました。お金よりも、農家さんや私たちと一緒に何かを成し遂げたいという気持ちが、とても大きかったです。私たちや農家さんの熱意に、参加される方の気持ちが連動することが、循環の秘訣だと思います」

切田「私がGRowを立ち上げたのも、今頑張ることができているのも、すべては恩返しをしたいから。農業に興味を持ち始めた頃、学内に畑を開墾したこともありますが、その時々で農家さんは私を助けてくれました。課題の多い農業ですが、関わる人の輪が大きくなるほど、私たちにできることをやろうと、さらに強く思うようになっています」

 これまで、人々の思いがつながり、循環していく過程のほとんどは、対面で行われるものでした。しかし、時代が流れ、技術が向上し、人々の価値観・ライフスタイルに大きな変化が訪れているいま、デジタルをあらゆる領域に広げて活用していくことは、普通のことになっていきそうです。

切田「もちろん、農業において全部がデジタルに置き変わることはないと考えています。何よりも農業は、農地があり、農家さんがいるもの。そして、できた収穫物は食べるものです。すごく先の未来まではわかりませんが、いまの私たちにとって、デジタルは優秀な道具。関わる人たちの気持ちをつないでいくために必要なコミュニケーション方法のひとつです」

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土を耕す切田さん。農作業もデジタルを活用することで、多様な未来が見えてきます。

 切田さんは、2022年4月からIT系の企業に就職するとのこと。理由は、農業と関わっていくほど、ビッグデータを活用した農業の未来が迫っていると気付いたからだそうです。

切田「これからの人生で得た経験と技術をGRowに還元し、もっとたくさんの農家さんと若者を近付け、笑顔を増やしていきたいです」

 アナログなコミュニケーションを中心としてきた産業においても、デジタルを活用することで活路が生まれています。今は小さな光だったとしても、人と人のコミュニケーションの形を模索しながら、農業とヒトをつなげてきた3人から、これからのつながりにまつわるヒントを教えてもらえた気がしました。

GRow(グロー)

「農業を盛り上げたい」という志のもと結成された団体。後継者不足や耕作放棄地の増加、獣害の被害、環境問題など課題が山積する日本の農業を、自分たちならではの視点を組み入れて、みんなが笑顔になれる未来を目指している。現在は農業を気軽に知ってもらうための「オンラインイベント」と、知り合った人たちが一緒に農業を行う「オフラインイベント」の両方を開催している。
http://grow-agri.com/

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