明日をつくるつながり

これからのつながり

孤独解消を目的とした遠隔操作ロボットOriHime・オリィ研究所吉藤オリィさん

自身の体験をもとに、デジタルテクノロジーで社会とのつながりを生む。

 体はここにあるのに、心は違う場所にいて、誰かと同じ時を過ごす。しかも、その心は、相手に感じ取ってもらえて、一緒にいた記憶を共存できる。この特殊な環境を実現したのは、吉藤オリィさん。「人類の孤独の解消」をテーマに開発された遠隔操作ロボット、「OriHime」の生みの親です。早速、吉藤さんにお話を伺いました。

「OriHimeは、孤独化の要因となる“移動・対話・役割”といった課題を、テクノロジーで解決する分身ロボットです。遠くにいるパイロットとOriHimeは、通信技術で結ばれていて、パイロットの意思での操作を実現。つまり、外に出かける、意思疎通を行う、仕事をするなど、これまでは不可能だったことを、ひとつでも可能にしていく役割を担っています」

 開発の過程で、吉藤さんは「少ない動作でも意思を伝達できること」や「肉体労働ができること」など、さまざまな課題に直面。その度に、新しい機能を備えたOriHimeを作ってきました。体が思うように動かせなくても、視線や唇の動きだけでロボットを操作できる仕組みは、課題の解決から生まれた機能です。そもそも、開発のきっかけは何だったのでしょうか。

「小学校5年生から中学校2年生まで、私は不登校を経験しました。その際にほしかったのが、もうひとつの自分の体。学校に通うのは自分ですから、体がそこにないと、クラスの話題から取り残されてしまいます。例えば自身が参加できなかった遠足があったとして、後から遠足の写真を見せてもらっても、誰の心にも私は存在しないし、私自身にも遠足の思い出がありません」

 周囲の人たちの温かいサポートにより復学した吉藤さんは、その後、工業高校で電動車椅子の新機構を開発。2006年からは人工知能の開発に取り組みます。しかし、それらの技術を組み合わせても、中学生の時に感じた「社会に参加できていない感覚」は、解消できないと気付いたそうです。

「人工知能を極めても、話し相手にしかならないと考えました。小・中学生の時に私を不登校に追いやったのは“人”です。でも、そこから救い出してくれたのも“人”。その経験から、“人と人”の体が同じ空間にない錯覚といえる環境でも、心がつながることを目指しました。“そこにあなたがいて、私がいる”と認識し合うことが最優先の課題になったのです」

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Zoom取材時の吉藤さん。デジタル時代のコミュニケーションについて、ただ言葉を交わすだけではなく、オフラインと変わらず“人と人とのつながり”が大切だと語ってくださいました。

どんな人にとっても、人とつながるきっかけになるために考えたこと。

 大学4年生の時に完成したOriHime。その初号機は、人型のロボットだったといいます。もちろん、当時の渾身の成果ですが、吉藤さんは満足することなく、さらに求められているものは何かと探求しました。

「歩くことは必要か、物を掴めるようにすべきか。さまざまな分岐点がありましたが、最終的に必要なことは、社会の中に参加した感覚を得ることです。物理的に何でもできた方が良いと考えがちですが、むしろそれは高コストで操作も大変。たとえば、高性能の車椅子を作っても、階段では必ず介助が必要になります。いずれどこかで手伝ってもらうならば、小型化して運びやすいようにして、より人とつながるための開発に注力しようと考えました」

 OriHimeの完成度を高めていく過程で、最も強力な援軍となったのが、今は亡き元秘書の番田雄太さん。子どもの時の交通事故により、脊髄損傷で首から下が動かなくなってしまった番田さんだから気付くことを、たくさん吉藤さんに伝えてくれたそうです。

「一般的に人は、手とは物を掴むためのものだと思い込んでいます。実際に、私もそうでした。しかし、番田は、会った時に『やぁ』と手を挙げて挨拶し、自分が相手に対して受け入れ体制であることを伝えたいと教えてくれたのです」

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さらなる良質なコミュニケーションを求め、OriHimeは日々進化を続けています。

 意思の伝達を考えたときに、まず必要になる機能は「はい」と「いいえ」。しかし、それだけでは、コミュニケーションは成立しません。番田さんは、ニュアンスを伝えることこそ、コミュニケーションの入り口だと教えてくれたのでした。

「実際に挨拶のための腕を作ってみると、これまでとは違う世界が広がりました。話す前の第一印象が良いし、以後の会話もスムーズ。盛り上がる確率も格段に上がります」

 さらに良質なコミュニケーションを求めていた時に出会ったのが、「はい」という首を縦に振る動きを繰り返すパイロットでした。吉藤さんは当初、「何がそんなにYESなのだろう」と思ったそうですが、次第に何を伝えてくれていたのかを理解したといいます。

「首を縦に振っていたのは、YESでなく、相槌だったのです。よく考えてみると、まったく相槌をしない人に話しかけ続けることは難しい。心を通わせていくためには、自分が歓迎していることを示し、会話に参加している時の自然な動きをすることがいかに大切かを知りました」

いろんな人がつながり合える場所を、みんなの手で作っていく。

 町工場からの協力を得たり、科学コンテストで受賞したりするなど、さまざまな過程を経て認知度を高めたOriHime。さらに、吉藤さんと番田さんは、全国を講演することで、知名度を高めていきました。しかし、活動するほどに目標との乖離が生まれてきたそうです。

「精力的に取り組むほど問題になったのは、『吉藤と番田だからできる』という声です。確かに番田は仕事にとても前向きで、OriHimeのパイロット歴も長い。開発の裏側も知っている、いわゆる“結果を出した人”でした。でも、多くの障がい者の方たちは、その過程を歩めません。それならば、仕事を通じて誰もが関係性を深めていける場所を作ろうとなったのです」

 吉藤さんが思い浮かべたのは、高校生や大学生のアルバイトの定番。郵便局での配達や、飲食店での接客といった、学生でも社会に参加できる窓のようなものでした。物を運ぶことや、ちょっとした応対ならば、OriHimeを介してできるはず。

 2021年6月、日本橋にひとつのカフェが誕生しました。オリィ研究所が運営する「分身ロボットカフェ DAWN」です。OriHimeを操作するパイロットたちが、注文を取って配膳。もちろん、会話もしながら接客を行います。なんと今では、体が動いていた頃からバリスタだったスタッフもいて、美味しいコーヒーを淹れてくれるとのこと。トークや人柄で人気の店員さんも働いているとのことで、さまざまな個性が集い、人生が輝く場になっています。

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接客をするOriHime-D。カフェではパイロットとの会話も醍醐味です。

「ずっと思い描いていた、“人と人”がつながる場所ができました。チャットを介して行われている会話や、挨拶などのちょっとした動きの細部にも、それぞれの心のつながりが見えています」

 ロボットは、そこに自分と相手が一緒にいることを錯覚させるツールとして存在させること。肉体の場所は別ですが、パイロットの“人”は存在し、同じ時間と経験を共有しています。心を開き合ってコミュニケーションを重ねていくほど生まれるのは、リレーション(相互関係)。その蓄積が、人から孤独を取り除いていく原動力となるのです。

 現在、カフェではOriHimeのパイロット約60名と訪れるお客さまが、心でつながり合い、新しい価値を生み出しています。

リレーションを積み重ねることで生まれる、あらゆる関係性。

 体が動かなくても、社会参加ができる環境を作ってきた吉藤さんとOriHime。その歩みの中でわかってきたのは、役割を持ち、コミュニケーションを積み重ねていくことで生まれるリレーションこそ、人と人との関係性を育むものということです。

「さまざまな事例を整理していく中で見えてきたのは、リレーションの構築には、不必要なコミュニケーションも大切だということです」

 確かに私たちも、仲が良い人ほど雑談し、さらに関係を深めていく経験をしています。しかし、誰とでもすぐに心から笑顔になれる雑談ができるわけではありません。特に、知らない人が相手だと、なおのこと。人との関係値を育むためには、その人の存在が必要とされる基礎づくりが必要です。

「たとえば、いま私は初対面のみなさんと話をしています。お互いがそこにいても良いと理解し合っているから、たくさんの会話が生まれてきました。つまり、それぞれに役割が必要で、役割こそがリレーションの起点になるものです。関係性さえ育まれていけば、そこに存在する体が自分の姿かそうでないかを問う必要も少なくなってきます。」

 そう話しながら見せてくれたのが、オリィ研究所の実験に協力している岡部さんというALS患者の方との交流の場面。眼球しか動かせない岡部さんですが、OriHimeを介してさまざまな動きをされるそうです。

「OriHimeの岡部さんは、ヘルパーさんを玄関まで迎えに行くこともできますし、チョコレートを配ってくれたりもします。たとえば『この前、旅行に行った北海道のお土産だよ』と、心で移動して買ってきたお土産を、そこにいる私に振る舞う。これは、ただの同じケーキとは違う、唯一無二の味だと感じるのではないでしょうか。間違いなく、岡部さんが存在し、心を通わせているから生まれてきた味なのです」

 オリィ研究所がカフェを開いてから、大きく変わり始めたものがあります。それは、障がい者雇用の在り方。お客さまとしてやってきた企業の人たちが、カフェで働いている人に魅力を感じ、ヘッドハンティングをしていくようになりました。転職して一般企業で働いているパイロットは、すでにのべ30名以上。居場所と役割の重要性を、社会の人々が知り始めたから生まれた動きです。

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「分身ロボットカフェ DAWN」の店内は段差がないなどアクセシビリティにもこだわりが。どんな方でもくつろげる空間になっています。

 かつて、吉藤さんと働いてきた番田さんは、「オリィ研究所と出会うまでは、社会に生かされてきたという感覚だった。でも、今は自身の思いで生きている」と話したそうです。命の輝きは、人と人がつながることで増していくもの。肉体が動かないことや、アナログなコミュニケーションがとれないことを理由に、社会への参加ができず孤独を感じられる方は多くいます。デジタルテクノロジーが、これまで社会に参加できなかった構図をかえる可能性を大きく見せ始めています。まだまだ模索が必要な段階ですが、デジタルがもたらす「新しいコミュニケーションのカタチ」から、人と人がさらに広く深くつながる未来に期待が高まっています。

吉藤オリィ(よしふじ おりぃ)

1987年奈良県出身。2012年にオリィ研究所を設立し、代表取締役CEOを務める。自身の不登校の体験をもとに、対孤独用分身コミュニケーションロボット「OriHime」を開発。2016年、Forbes誌がアジア太平洋地域の各国を対象に各分野で活躍する30歳未満の人材を選出する「Forbes 30 Under 30」にて「Industry, Manufacturing & Energy」部門に選出された。
https://orylab.com/

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