明日をつくるつながり

これからのつながり

受験も勉強も教えない教室・探究学舎宝槻泰伸さん

探究心を育むことが、子どもたちの本質的な成長につながる。

「いまの学校教育のカタチが、ベストだと思いますか?」。そう問題を提起してくれたのは、子どもたちの可能性に着目し、「もっと知りたい!」「やってみたい!」という興味開発型の教育を展開してきた、探究学舎・代表の宝槻泰伸さん。

 コロナ禍以前から対面式の講座とオンライン講座の両輪で、驚きと感動を起点とする教育を推進してきた第一人者です。確かに、みんなと同じことを一斉に習うという学校教育についてどう考えていらっしゃるのでしょうか。現在の教育で気になることを宝槻さんに伺いました。

「いま、学校で行われているものは、失敗しない教育だと考えています。つまり、失敗から学ぶチャンスも、そこから立ち直る方法も経験する機会が少ないでしょう。私が子どもの時に父から受けた教育は、何よりもワクワクすることが大切というもの。成功や失敗など関係なく、自分から興味をもち、行動していく、プロセスを重視していました」

 大人になり、父親の指針が正しかったことを、さまざまな経験の中で味わったと話す宝槻さん。子どもたちに授業を行う上で、最も大切にしたのは、まさにその「ワクワクすること」や「感動すること」でした。

「探究学舎はいわゆる学習塾ではないので、成績アップも合格も目指していません。小・中学生に対し、探究心を育むことを目的とした、宇宙・元素・戦国英雄など、さまざまなジャンルの授業を行なっています」

 探究学舎を始める前には、学校へ出張授業を行う事業や、高校生が対象の塾を開いていた宝槻さん。しかし、当時はカリキュラムに沿った授業や点数アップだけが望まれ、本当にやりたかった「探究心を育む教育」を展開できる余地はありませんでした。

「高校生、大学生、社会人と、だんだん大人になっていくプロセスの中で、本質的な成長や体験を積み上げる機会をつくりたかった。でも、高校生とその親御さんには、あまりうまくいきませんでした」

 当時高校生だった子たちの親は、現在、主に60代。個人の価値観よりも、みんなでまとまっていこう、という考え方が中心の時代に生きた世代です。そこでは、きちんとした就職ができることや、1つの企業に長く勤めることがスタンダードでした。しかしここ数年で多様な価値観が認められ、それぞれの個を尊重する考え方に変わってきています。世代ごとの価値観の違いがある中で、宝槻さんは自らが考えるベストな教育のカタチはどの領域で実現できるのかを追い求めてきたのでした。

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Zoom取材中の宝槻さん。現代の学校で行われている「失敗しない教育」を変えたいと、強い気持ちを語ってくださいました。

デジタルで生まれる、相互コミュニケーションのカタチ

 探究学舎の講座を実際に見てみると、「うわっ、すっげー!」「なにこれ!もっと知りたい!」と、目をキラキラさせて、前のめりに受講する子どもたちと出会います。なんと、これは驚くことに、オンライン授業での風景。

「コロナ禍以前から行ってきたオンランイン講座は、たまたま、いま最も必要とされているようになりました。教室でも、オンラインでも関係なく、活発でにぎやかな授業であることに変わりはありません」

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コロナ禍以前に行われていた、対面での授業。オンラインになった今も、本質的には変わっていません。

 2018年に宝槻さんは、オンライン講座の講師を依頼されました。当時は、「対面に勝るものはない」と考えていたそうですが、実際に講義をしたところ、対面と何ら変わりのない評価を得たそうです。「これはいける!」と感じた宝槻さん。以降、探究学舎はオンライン講義を取り入れていくことになりました。

「ご存知のとおりデジタルの魅力は、時間さえ合えば、遠く離れている人たちがつながれること。ただ、その代償として、触れて感じる『タンジブル』という要素が減ります。でも、それは工夫次第で克服できることです」

 たとえば、食に関する「いろんな調味料で、おにぎりを食べてみよう」というオンラインの講座。受講する全員に、自宅でおにぎりと醤油、味噌、塩などを用意してもらい、授業を受けながら食べてもらうという内容だったそう。

「私が一人で食べて感想を語っても、それはテレビでもできることです。世の中の真実を体感するためには、やはりタンジブルが必要不可欠ですが、そこは事前に用意してもらえば解決できること。大切なのは、オンライン上でも、『おいしい!』とか『温度が変わったら味がどう変化するんだろう?』などの声が、対面の時と変わらず、会話で伝え合えることです」

 ついつい、私たちはデジタルでできること、できないことというふうに手法を切り分けて考えてしまいます。しかし、探究学舎では、どのように感動を伝え合うかを重視していました。そこにあるのは、先生と生徒、生徒同士のコミュニケーションだったのです。

デジタルは必ずレスポンスする。しかも、親も巻き込んでくれる。

 オンライン授業を展開するほどに、メリットがたくさん見えてきたと話す宝槻さん。特に、「子どもたちは本質的にデジタル好き」ということを、大人が深く理解すべきことだと話します。確かに、子どもたちは、デジタルデバイスが大好き。その理由はどこにあるのでしょうか。

「理由は簡単です。話しかけたり、ボタンを押したりすると、必ず誰にも一定以上のリアクションがあるからです。これは何十人もの生徒を一人で見る学校の先生には難しいことですし、紙媒体で勉強しても起こらないこと。無反応や大勢に埋もれてしまうことがありません。ただのピンポーンという効果音でも良いのです。反応があることで、子どもたちの興味は継続します」

 アクションに対して反応が少ないと、一気に心がしぼんでしまった経験はないでしょうか。リアクションは、ワクワクを維持させ、さらなる興味を生んでいくエネルギーだったのです。

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オンライン授業の様子。子どもたちの生き生きとした表情が、授業への没入感を物語っています。

「もうひとつの発見は、親御さんの参加の仕方です。対面の講座では、学ぶ子どもたちのグループがあり、親御さんは後ろで授業参観のように見ておられました。しかし、オンライン講座では、親子が横並びで講座に参加します。  それぞれ質感は異なりますが、両方とも子どもたちが成長する環境。今後、コロナ禍が終息したら、対面とオンラインを組み合わせ、さらに進化した感動体験の場を作ることができそうです」

 今後の教育の未来は予測できないとしながらも、ますますデジタルによるラーニング・エクスペリエンス(学習経験)の機会が増えていくと話す宝槻さん。

「リアル環境でのラーニング・エクスペリエンスを望む親御さんは、常に一定数います。でも、オンラインで遜色のない受講ができるとわかった人たちは、通塾の時間の有効活用を考えるなど、オンライン講座にも大きな期待を寄せていただいていると感じています」

ノンフィクションが持つ感動こそ、人生を楽しく歩むエナジー。

 オンラインでのやり取りは、リアル環境でのやりとりよりも、淡白になっていると考えられがちです。しかし、デジタルの特性を理解し、コミュニケーションを行うことで、ディスプレイを介して人の声や表情、人柄なども伝わっていくのです。

「私と探究学舎は、“学習体験を再発明する”というミッションを掲げています。事実に触れ、探究する方法を知り、学ぶ。その学習体験が、最高のエンターテイメントになることで、子どもたちにとって、ここが最高の居場所になります。提供する側が、しっかりとデジタルの特性を理解していれば、リアルでもオンラインでも、変わらず目指していることを実現していけます」

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デジタルの特性をどのように活かし、子どもたちを熱狂させるか。宝槻さんも日々挑戦を続けています。

 とはいっても、リアルとオンラインのコミュニケーションを比べたとき、どこかでリアルのコミュニケーションの方が良いと感じてしまうことも事実。人生を振り返ってみると、あの時あの場所で、一緒に何かをしたからこそ絆が育まれた友人・知人はたくさんいます。

「これまでは同じ時間と空間を共有するから、絆が育まれると考えられてきました。でも、実際にオンラインを活用していくと、一度も会ったことがない子どもたちや親同士が、絆を育んでいったのです。本当に大切だったのは、ノンフィクションの素晴らしい時間を一緒に体験することでした」

 時にフィクションの物語は、大きな感動を私たちに与えてくれます。しかし、探究していくことは、ノンフィクションの世界だからこそできること。もしも、日々の暮らしの中の気付きに、ワクワクすることを感じられるようになったら。きっと感動をたくさん発見し、探究をする楽しみを味わえる人生となっていくでしょう。

「現在、小学生から中学生を対象に開塾しています。彼ら彼女らが高校、大学と人生の歩みを進める中で、伴走できる体制づくりを行っています。いずれは、国内有数のテーマパークすら凌駕したい。それぐらいの熱意と確信を持って取り組んでいます」

 これからは、デジタルを活用していくことがますます進んでいく時代。その大きな潮流の中でも、宝槻さんは、心配することはないと笑顔で話します。探究学舎で最も会話が活発になるのは、ノンフィクションに起因する感動と気付きがあった時。デジタル・リアルどちらも使いながら人とのコミュニケーションを続け、あらたな感動やワクワクを生み出す力を教えてもらいました。

宝槻泰伸(ほうつき やすのぶ)

1981年東京都生まれ。2011年に学習塾「探究学舎」を開設し、代表を務める。子どもたちの「もっと知りたい!」「やってみたい!」という探究心を刺激するオンライン講座は人気を集め、国内のみならず世界中からのべ3,000家族が参加している。2019年「情熱大陸」出演、2021年「TEDx」登壇。5児の父。
https://tanqgakusha.jp/

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