FEATURE | 明日をつくるつながり | 石巻

Village AOYA


農業で人が“人間らしく”なる。多様性を認め、互いを支えあう環境づくり

 毎日終電の時間まで働き、家に帰る頃にはクタクタ。コンクリートに囲まれた都会で時間に追われた毎日を送っていると、いつの間にか心が荒んでしまいます。最後に土に触れたのはいつ? 最後に広い空を見上げたのは、一体いつでしょう。

 2016年に設立された一般社団法人イシノマキ・ファームは、ソーシャルファームを理念とした農業の担い手の育成を行い、石巻の北上町で宿泊型農業体験施設「Village AOYA」の運営も手がけています。
 代表理事の高橋由佳さんは、農業には人を元気にする力があると力強く語ります。
「農業は1人でできる仕事ではありません。地元の人と関わり、協力することによって初めて成り立ち、次世代の担い手の育成へとつながっているのです。」

高橋由佳

かつて石巻で暮らした経験があり、親しみがあったことから拠点を北上町に決めたそう。

若者と住民が農業体験をすることで、一緒に地域をつくる

 障害者の就労支援の活動をバックボーンに持つ高橋さんは、さまざまな障害を持って働けない人のための農地と古民家を探していました。古民家を借りて農業の担い手を育成し、地域づくりを手伝おうと、石巻市に一軒家を借りたのが「Village AOYA」の始まり。施設のプロデュースには、古民家の改修を行う「合同会社巻組」さんが携わっています。

 利用者は20〜40代の方が多く、中には都会の生活から離れデトックスのために農業体験をしたい方も訪れ、リピーターも多いのだとか。
「東京で疲れた方が野菜を収穫して、おいしいご飯をたくさん食べると、『人間らしい生活をした!』って言うんです。太陽を浴びないと、人間は幸福感を得られませんから」

 「Village AOYA」には外からの利用者だけでなく、地元の方も集まってきます。住民の方がお酒を持ち込んで宴会が始まるのも日常茶飯事で、ボランティアで作業を手伝ってくれたり、玄関におすそ分けのお野菜が置いてあったりと、当たり前のように人がつながり支え合っています。
 最初はなかなか理解も得られなかったそうですが、何回も鍋を囲んで話をするうちに、理解者になってくれたそうです。

「町の人口が減ってるので、若い人が来てくれるのはやはり嬉しいみたいですね。今では『今週は誰か泊まりに来るの?』と聞かれます」
 と、高橋さんは嬉しそうに語ります。
 私たちが「Village AOYA」に到着したときに感じたのは、田舎の実家に帰ってきたような安心感と、寒さを気遣ってくださった高橋さんの優しさでした。外から来た人を暖かく迎えてくれるような、そんなアットホームな雰囲気もリピーターが多い理由のひとつでしょう。

企業がフィールドワークの取り組みとして訪れることも多い。

土に触れることで、普段とは全く違う表情を見せる。

地元の人が車を出して手伝ってくれることも。

ホップの栽培から、みんなで作る「巻風エール」

 イシノマキ・ファームでは農業体験の参加者たちが栽培したホップで、オリジナルビール「巻風エール」を作っています。醸造の体験ツアーに行ったり名前を一緒に考えたりして、みんなで作り上げたビールは遠方からくる利用客にも大人気。

 現在は委託している醸造も、将来的には自分たちの手でやりたいと考えているとのこと。
「みんながオーナーシップ意識を持つと、自分たちのモノという意識が芽生えて大事にすると思うんです。そうやって関わって、みんなで作り上げていきたいですね」

 イシノマキ・ファームの取り組みによって「住民が人と交流する機会が増えた」と高橋さんは感じるそうです。カフェや居酒屋など飲食店がない北上町は、外に出て人と出会う場が少ないですが、「Village AOYA」が集う場所になっているといいます。農家の方もホップの栽培に適した土地を教えてくれたり情報提供してくれたりと、とても協力的。

 仙台と石巻の二拠点居住をしていた高橋さんも、住民の方の温かさに惹かれて2019年2月に今の北上町に完全移住したそうです。
「仙台の家に住んでいた頃は、1週間誰とも会わないことも。でもここにいると必ず誰かに会ってお話ができるように、コミュニティがとても豊かなんです」
 と、土地の魅力を語ってくれました。

巻風エール

ビール作りは次が2期目。クラフトビール好きの若者からも注目されている。

バックボーンは人それぞれ。多様な人が暮らしやすい町へ

 東日本大震災で被災した方が、農作業を体験することによって変化していく様子を見られたことが、高橋さんがイシノマキ・ファームを創業しようと思ったきっかけでした。少しずつ元気になって、一緒に助け合いながら農作業している方の姿がエネルギーになったそうです。

「忙しい毎日の中で、無心になることがとても大事」と語る高橋さん。心を無にして作物に向かい、農作業に気持ちを向けることが当事者にも好影響を与え、将来の担い手を増やし地域の人と手を組むことにもつながっていきます。

無農薬にこだわる農家も多く、オーガニックの街として発信する目標も。

 高橋さんにとって“人と人とのつながり”とは、「多様性を認め合うこと」。「Village AOYA」のあるイシノマキ・ファームには、障害を持った方や不登校の子どもたち、元気なおじいちゃんなどさまざまな背景を持った人が集まります。
「その人がどんな人かは関係ありません。どう生きるかを尊重すべきであり、多様な人と支え合って生きていくべき。自分とは違う、と線引きをしないことが大事ですね」

 私たちは自分と違う人を区別してラベリングをしがちですが、「Village AOYA」にはそういった仕切りや隔たりはないのが当たり前。皆が同じ土壌で一緒に畑を耕し、集まって共に人間らしい生活を送ることが、多様性を認め合う“人と人とのつながり”につながってくるのかもしれません。


■ 高橋由佳

宮城県仙台市出身。二輪メーカーにてモータースポーツの企画運営をし、自身もレースに参戦。
その後、教育分野・福祉分野の専門職を経て、2011年に障害者の就労支援団体のNPO法人Switchを設立。認定NPO法人Switch 理事長。
2016年、様々な理由で通常の仕事に就くことが難しい人たちのための中間就労の場として一般社団法人イシノマキ・ファームを設立。ソーシャルファームを理念とした農業担い手育成を行い、ホップ栽培やクラフトビールの開発に取り組む。就農支援・移住促進の拠点として宿泊型農業体験施設Village AOYAの運営も手がけ、共生できる社会の実現に向けて積極的に活動を展開している。

■ Village AOYA

イシノマキ・ファームが運営するゲストハウス。築100年以上の古民家を合同会社巻組のプロデュースでリノベーションし、短期の体験滞在やファームステイを体験できる。利用者や地域ボランティアが栽培したホップを利用したビール「巻風エール」の販売も行っている。
Village AOYA:https://nazoventour.wixsite.com/villageaoya