FEATURE | 明日をつくるつながり | 石巻

合同会社 巻組


誰かが大きく得をせず、誰も損をしない関係。相互扶助を事業の中で成立させていくために

 2011年の東日本大震災をきっかけに、2011~12年の2年間で28万人ものボランティアが石巻を訪れました。震災で2万2000戸が全壊し、石巻にボランティアをきかっけにやってきた若者がそのまま移住し、新しく事業を始めようとしても家がない状況。
 合同会社 巻組の代表を務める渡邊享子さんは、自身もボランティアとして石巻に足を踏み入れた一人です。支援活動にあたる若者向けの賃貸住宅を作るために空き家を有効活用できないかと考え、空き家の改修、企画運営等の活動を始めます。

 巻組の活動は“相互扶助”の考えの上に成り立っているという渡邊さん。石巻は震災をきっかけに利害を超えて助け合う関係性が生まれたといい、これから復興のフェーズが変わっていく中でも、当時の人々の関係性がベースとなり今のまちづくりに繋がっていると話します。

誰も踏み入れていない、わずかな隙間に自分の力を発揮できるポイントがあった

 巻組の活動は地方の地域に起業型人材の育成や誘致を行うため、その活動拠点となる古くなった空き家を買い上げ、リノベーションをして運用するもの。新しい事業を生む若者たちに貸すことで、彼らが地域に賃料を落とすことになり、暮らしのエコシステムが循環しているといいます。

 渡邊さんの活動は地元の住人たちにも伝染していきます。ボランティアが新しいことを始めたり、生業を作って生活したりすることに、地元の若者も刺激を受けて新しいことにチャレンジするようになったのだとか。空き家をただの不動産として見るのではなく、生活の場や新しい活動を支援する切り口として活用しているのです。

 最初に活動を始めた当初、渡邊さんはまだ20代前半。周りには保守的な人も多く、成果が目に見えづらいせいもあって活動に不信感を持つ人も。
 その中でも渡邊さんにとってターニングポイントとなったのは、最初に空き家を貸してくれた大家さんとの出会いでした。
「しらみ潰しに空き家を探していたときに、偶然空いている家を見つけました。何回も通って会話を重ねて信頼性・関係性を築き上げられたから、見ず知らずの女の子に任せようとしてくれたのだと思います」
 この出会いが、次の活動へのステップになったそうです。

 自分のニーズや力を発揮できる場所は、目に見えるところだけではありません。
「他の人たちが手を入れていなかった隙間にちょうど自分がフィットし、力を出せたのかもしれません」
 と、渡邊さんは語ります。

空き家を買い上げ、リノベーションして運用するモデル。

空き家を活用したシェアハウス「SHARED  HOUSE oli」。

古民家を再利用した農業体験施設「Village AOYA」も巻組が手掛けたもの。

顔の見える関係性の中で、異質なものが同居できる石巻という町が好き

 新しい取り組みや、おもしろい発想を持っている地域の経営者はたくさんいます。しかし今までは、そのアイデアをぶつける先や、ブレストをする相手がいませんでした。
 そこで家族経営の商店や地域のベンチャーに美術大学の学生をインターン生として派遣し、経営者と共に新規事業を作る事業。地域の方も発想が広がり、若者からの新しい視点をもらえて喜んでいるそうです。

「世の中に新しいことを生み出すとき、最初は理解されなかったり、うまくいくはずがないと潰されてしまったりすることも多くあります。企業が学生やアーティストとコラボすることで、地元の企業の方も内に秘めていたモヤモヤしたものが言語化されていくようです」

 渡邊さんに石巻の魅力を尋ねると、「異質なものが同居する多様性」と回答。町の規模感や港町らしい気質、ちょうどいい“隙間”があるところが気に入っているそうで、コミュニティがゆるいからこそ、新しいことが始めやすい土壌があると話します。近すぎず遠すぎず、絶妙な距離感が“隙間”を作り出しているのかもしれません。

「石巻では、顔の見える関係性の中で、お互いが牽制し合わずに同居できるんです。繁忙期は漁業を手伝って、稼いだお金を使って自分でお店を開いてみたり。あるいは民宿で働きながらアート活動をしたり……。地域の自然と共に暮らし、その傍らで、新しいことにチャレンジする“自分なりの暮らし方”を創造できる密度感が魅力ですね」
 と語ってくれました。

石巻で開催したイベントの様子。

事務所では現在従業員5人、パートの方が事業に携わる。

自分のリソースを出し合って、少しずつ得をする価値交換

 巻組の活動は相互扶助の上に成り立っていて、空き家の活用もその一例。長い間使われておらず、解体するにもお金がかかる古い空き家を、住む場所に困っている人に貸し出して新たな住人が家賃を払う。そうすることで、空き家を貸してもらったからこそ住人はアート活動や起業ができるようになり、家賃が発生し、彼らが暮らすことそのものが地域経済につながる。これもある意味、人と人とのつながりなのかもしれません。

「誰か1人が大きく得をすることはないけれど、みんなが少しずつ得をする価値交換が大事。自分たちが持つリソースを出し合って循環することが、これからの地方ではすごく重要だと思います」

 震災をきっかけにボランティアが利害を超えて町を助け、地元の人もその助けを受けて自分たちの力で立ち上がろうとしてきました。
「そういう地域だからこそ搾取して疲弊する関係性ではなく、利害を超えて価値を交換しあって共存する人と人とのつながりの関係を、自分の事業の中で成立させていきたいです」

 利害を超えて助け合う関係性、そして異質なもの同士が助け合えることを見せてくれたのが震災でした。
「2011年を機に起きたことが、これからの社会を変えて行くと思っています。人間はお金を超えた価値交換がきるのだという発想が新しい事業を作って行く上で重要だと思います」
 渡邊さんは今まで誰も触れてこなかった隙間に手を入れ、これからも互いが助け合う関係の中で、地域に新たな価値を生み出していきます。

渡邊享子

■ 渡邊享子(わたなべ きょうこ)

1987年埼玉県出身。東京工業大学大学院修了。
2011年に起きた東日本大震災を機にISHINOMAKI2.0 へ参加、その後宮城県石巻市へ移住し、支援活動にあたる。若者向けの賃貸住宅を作るため、空き家の改修、企画運営等の活動を始め、2015年合同会社巻組を設立。地方都市で資産価値の低い空き家を活用してクリエイティブな人材が育つ環境を模索しながら様々な事業を展開する。
2016年、日本都市計画学会計画設計賞を受賞。
2019年、日本政策投資銀行主催の「第7回DBJ女性新ビジネスプランコンペティション」で「女性起業大賞」を受賞。
東北芸術工科大学コミュニティデザイン学科専任講師を兼務。
合同会社巻組:https://www.makigumi.org/