FEATURE | 明日をつくるつながり | 石巻

MORIUMIUS


「雄勝の自然から子どもの未来をつくる」過疎地域が抱える問題と次世代への関わり方

 石巻駅から雄勝町方面へ海沿いに続く道を車で走っていくと、途中から山の中へと道が続いていきます。くねくねと曲がる道を進み、周囲を緑に囲まれながら山を登ると、まるで映画に出てきそうな古い校舎を発見。そこには土に触って遊んだり、道具を使って木を切ったりと昔ながらの生活を体験する子どもたちの姿がありました。

 廃校となっていた旧桑浜小学校を再生し、自然とともに生きる暮らしを体験できる宿泊施設として生まれ変わった「モリウミアス」。ここでは、今日も子どもたちの元気な声が聞こえてきます。土に触れたり、動物の世話をしたりして、とっても楽しそう。
 実はここ、フコク生命が地元とフコク生命の“絆”を深めることを目的とした、研修を行った場所でもあります。

 公益社団法人MORIUMIUSの代表・フィールドディレクターである油井元太郎さんは、子どもが就労体験をできるテーマパーク「キッザニア」の立ち上げに関わった人物でもあります。話を伺うと、次世代を担う子どもたちと地域との“つながり”が見えてきました。

油井元太郎

現代の子どもたちは、学校以外で学べる場所が極端に少ないという。

震災前から感じていた、教育機会に恵まれない都会と過疎地域のギャップ

 油井さんと石巻とのつながりは、炊き出しのボランティアから始まりました。ニューヨークで社会人生活を送っていた油井さんは、18年前に現地で9.11を経験。
「テロの経験があったからこそ、震災も他人事に思えませんでした。親戚がいるわけでもない、石巻もどんな場所かわからない状態だったけれど、気がついたら引き寄せられていました」

 地元の中学校で放課後に塾をしたり、給食代わりにお弁当を作ったりしたことから、子どもや先生、保護者と信頼関係が築けたといいます。「モリウミアス」として生まれ変わった旧桑浜小学校は、2002年に閉校した廃校。
「震災復興と違う次元で、“母校が蘇る”という地域の方のモチベーションがありましたね。モリウミアスの名前には森と海と明日と、雄勝の自然を守りながら何かを生み出し、明日をつくっていく子どもへの希望が込められており、決める際には地域の方も加わっていい意味で拮抗しました」

 校舎の再生にはONDESIGN やISHINOMAKI2.0に携わる建築家の勝邦義さんなど、建築関係だけでも20名ほどが関わっています。その異例の人数に驚いていると、油井さんは
「子どもの学び場だから、いろんな人が関わった方が豊かになるんじゃないかな」
と笑います。

 都会の子どもは教育の機会には恵まれているかもしれないが、自然と触れ合う機会が少ないという面では恵まれていないのが課題。その一方で、自然豊かな地方には人が少なくて仕事もなく、過疎化が進んで高齢者だけ暮らしている。そのギャップに違和感を感じたそうです。
「子どもが都会から地方に行けば、それが地方のためになると思うんです。それは震災前から感じていて、モリウミアスを始める原動力にもつながっています」

なるべく元の校舎を生かし、接ぎ木する形で再生させた。

硯の原料である雄勝石に、子どもが自由に絵を描く。

人との出会いが全てを変えた。常にワクワクする方を選んできた人生

 震災直後に来た時は瓦礫だらけで、見たこともない大変な状況で圧倒された油井さん。それと同時に当時から自然の豊かさを感じていたそうで、雄勝には他の場所とは違う“気”を感じたのだとか。
「里山と海がこれだけ近いし、自然の循環を感じやすい環境という、独特な地形がいいんじゃないかなと思います」
 確かに、ここへ来たときに感じた潮の匂いと山の空気には、これまで感じたことのない不思議な清々しさがありました。

自らのこぎりを使って山で伐採、植樹を経験する。

ヤギや豚、鶏などの世話も率先して行う。

「人がやって来ると、エネルギーが感じられる」と油井さんはいいます。地域の方々も、雄勝に子どもたちがきて元気な声が聞こえることを喜んでいるそうです。
「モリウミアスでお風呂を焚くと煙が上がるんですけど、下の浜から見ると山の上に狼煙(のろし)が上がってるように見えるんです。夕方に煙が上がってる様子を見ると、今日も母校に子どもがきて雄勝の自然を楽しんでいることがわかってホッとするそうです」
 取材中にも校舎からもくもくと煙が上がっていたので、きっと漁村の方たちも、子どもの存在に安心していることでしょう。

 油井さんは、「自分のキャリアは全て人との出会いによってつくられてきた」と語ります。キッザニア東京を立ち上げたのも雄勝に来たのも、始まりはすべて人との出会い。彼らの人柄や行動力に惹かれて飛び込んだそうで、意外にも将来設計にあまり興味がないのだとか。
「その時の出会いや、自分がワクワクできるかどうかを大事にしています。アメリカの小学校はとても多種多様でしたし、いろんな人種の人々がいましたから、そこで過ごした経験が大きく影響していると思います」

子どもの課題は大人の課題。重要なのは、次世代を担う子どもたちとの向き合い方

 これからの課題は「場の継続」。収入を得て「モリウミアス」を継続させていくために、子どもだけでなくフコク生命のように企業研修でも使用してもらい、地元の漁師さんを講師として雇ったりするなど、お互いが対等な関係で、ボランティアではなく仕事として関わることが大切だといいます。自分たちでやりすぎず、地元の事業者とビジネスとして付き合うことが、一緒に「モリウミアス」を運営することにつながってゆくのです。
「雄勝の自然から子どもたちの未来を作っていく。子どもを巻き込むと、目の前の地域経済が変わっていきます」

森や海の自然、動物と生活をすることで自然の循環を学ぶ。

 油井さんが考える“明日をつくるつながり”とは、地域が子どもに関わること。
「地域の資源が豊かで、どれだけの価値があるかを理解して、大事にすることに意味があると思います。子どもの数が減って地球資源も枯渇していく今、次世代をどう大事にするか、その時代を生きる子どもたちをどう大事にするかが重要です」

 高齢化が進む街だからこそ、受け継いできた知恵や歴史文化を我々が受け継ぎ、子どもたちにつなげていかなければいけません。“子どものために”という視点があるかどうかで、行動が大分変わってきます。
「子どもの教育課題は、大人がやってこなかったことの裏返しであり、大人の課題でもある」
 という油井さんの言葉に、我々も考えさせられます。

「子どもたちと共に高めていき、子どもたちに学ぶ。まだまだモリウミアスは未完成で、自分の中では3割にも到達していないと思っています。“どんな未来になるのかわからない”状況を楽しめるのが、いいですね」
 と、現在進行形で「モリウミアス」を成長させている油井さん。雄勝の自然、そして地域住民の方と連携する「モリウミアス」の活動は、未来を担う子どもたちの未来へとつながっています。


■ 油井元太郎(ゆい げんたろう)

1975年東京都出身。幼少からアメリカで生活し、アメリカ合衆国ペンシルバニア州レバノンバレー大学音楽学部卒業。
ニューヨークで音楽やテレビの仕事を経て、2004年に帰国し、帰国後にキッザニアの立ち上げから関わり、コンテンツをはじめとする施設の開発を担当した。2007年グッドデザイン金賞受賞。
2011年東日本大震災でのボランティア活動を通して雄勝町に出会う。震災で傷ついたこどもたちのサポートをするために地元の小中学生にアフタースクールや体験プログラムを展開。
キッザニアで培ったノウハウを地域に開き、森と海がつながる豊かな自然の中で循環する暮らしの体験ができるMORIUMIUSを設立し、フィールドディレクターとして活躍している。
MORIUMIUSは2016年にグッドデザイン賞受賞。

■ MORIUMIUS(モリウミアス)

「雄勝学校再生プロジェクト」によって旧桑浜小学校(築90年、2001年閉校)を「こどもたちの複合体験施設」として改修。全国、世界のこどもを対象に、山と海がつながる豊かな自然が残るリアス式海岸での漁業、海と密接に関連する森の生活、平らな土地の少ない中でも恵みをもたらす農業を、一次産業従事者との交流を通じて体験するプログラムを提供する。また、海、森、田畑での産物をこどもたちが料理をしたり、雄勝が誇る硯石の工芸などの体験を通じ、自然の循環やその中で生きる力(サステナブルに生きる力)を身につけることを目的としている。
MORIUMIUS :http://moriumius.jp/