明日をつくるつながり|ともに生きているということ
BONDプロジェクト 橘ジュンさん

FEATURE | 明日をつくるつながり | ともに生きているということ

BONDプロジェクト 橘ジュンさん


本来、親や周りの大人から守られていなければならない存在の若い女の子たちが、なぜリスクを冒すのか。

 「もういやだ」。誰もがこれまでの人生で、何度も胸に抱いた感情ではないでしょうか。多くの場合、時が経つことで考え方や状況の変化が起こったり、自分で消化することで、次のステップへと進んでいけます。しかし、中には時とともにさらに問題が大きくなり、抱えきれなくなってしまう人もいます。

「死んでしまいたい、消えてしまいたい。居場所がない。私たちが関わり続けてきたのは、身体的もしくは精神的、あるいはその両方で拠り所をなくしてしまった女の子たちです」

 そう語るのは、特定非営利活動法人BONDプロジェクトの代表で、創設者の一人でもある橘ジュンさん。2009年に同NPOを立ち上げ、「10代、20代の生きづらさを抱える女の子のための女性による支援」をモットーに、困難を抱えた若い女性の自立をサポートしてきました。

Zoom取材時の橘さん。あらかじめ大量の資料を用意してくださり、10代、20代の女性が置かれている現状を語ってくれました。

「最初はライターとして、街頭でそういった女の子たちの声を聞き、届ける活動をしていました。パートナーのカメラマンとフリーマガジンの『VOICES』を立ち上げ、取材を重ねていく中で、本当に困って行き場所がない子を家に泊めたこともあります」

 当時はそれが「保護」という活動であることも、未成年者を泊めるには親権者の許可が必要なことも知らなかったと話す橘さん。真摯に活動を広げるうちに支援の輪が広がり、行政との連携も生まれていく中で立ち上げたのが、同NPOだったそうです。

「10代、20代の子は、本来、親や周りの大人から守られていなければならない存在だと思います。しかし、BONDに相談に来る子たちは、家庭や学校など、本来なら居場所になるところで問題を抱えていることがほとんど。当初は街頭パトロールで話しかけていましたが、いまはインターネット上でのパトロールも強化し、被害に遭う前につながろうとしています」

 インターネットの普及は、私たちの仕事や生活の場をひとつ上のステージに押し上げました。その一方で、情報が圧倒的な速さで広がっていくため、新しいタイプの犯罪が問題になっているようです。特に橘さんが問題になっていると話すのは、「泊め男」という存在。

「リアルタイムで人とつながれるTwitterには、行き場をなくした女の子たちに、下心から『泊めてあげようか』と近付く大人たちがいます。できるだけ先回りして女の子たちの話を聞き、場合によっては泊め男に会いに行って注意をすることもあります」

 なぜ、「死んでしまいたい」「消えてしまいたい」と思うのか。話を聞き続けていくと、自分では努力しても解決できないような、家族問題やDV(ドメスティック・バイオレンス)、虐待、貧困などが理由として浮かび上がってきます。困難を抱えた子たちの多くが、行き場を失い、女の子を狙う犯罪者たちとつながりを持ってしまうのです。

新型コロナウイルス感染症によって、もともと存在していた問題が深刻化・顕在化してきた。

 2020年11月、世間を驚かせたできごとがありました。警視庁から速報で10月の自殺者数が2,153人と、前年同月比で139.9%と増加したことが発表されたのです。その中でも特に女性の自殺者は、前年同月比で182.6%と急増。厚生労働省も、仕事やDV、育児、介護の悩みが深刻化している可能性を指摘しました。新型コロナウイルス感染症の拡大と自殺の間には、どのような関係性があるのでしょうか。

「インターネット上での書き込みを見ていると、時間の経過とともに中身が変わっています。自粛期間中は、『家出したい』『お金に困っている』という方向性でしたが、6月に学校が再開されると『学校に行きたくない』といったものが増えていました。彼女たちを狙う人たちの書き込みも、その方向性に合わせて変化しています」

 橘さんによると、「コロナ禍においては、もともと存在していた原因がさらに大きくなり、場合によっては問題が複雑化してしまった」とのこと。たとえば、家で親からの暴言を受けて困っていた18歳の女の子の話。高校生だった今春まで、平日は夜まで家に帰らず、土日は外出して親との距離をなんとか取っていました。春には大学生になれるので、環境が良くなると耐えていたそうです。

「でも、コロナのせいで大学は休学になり、再開したときにはオンライン授業。親はリモートワークで家にいる。必然的に暴言を受ける頻度が高くなり、内容も酷くなっていきました。居場所をなくした彼女は、たまらず外出し、泊め男の被害に遭ってしまったのです」

 別の例では、父親に貯金を取られた上に暴言を浴びせられて困っていた女の子もいたそうです。その子も、父親がコロナ禍の影響で職を失ったことが原因でした。

「自粛期間で難しかったことは、都道府県をまたいだ移動ができなくなり、『良くなるために一緒に考えよう。だから、まずは東京においでよ』と言いづらかったこと。また、肉声の電話で安心してもらえるはずと『電話していい?』と聞いても、『(原因の)親が横にいるから無理』と言われたことです」

 誰もが以前は当たり前にできたことが不可能になっていったコロナ渦。秋頃からは、雇用、就職、進学など、先行きが不透明な未来に関する相談がたくさん寄せられているそうです。

BONDプロジェクト公式サイトでは電話やLINE、メールなどで相談を受け付けているほか、内容に応じた窓口への案内もしています。

困っている女の子たちが助けてほしいのは"今"。SOSの声に対応できる大人でありたい。

 そのような現状を知ると、「何か役にたちたい」と思う反面、多くの人たちは仕事や家庭などで手一杯。そんな私たちにでも何かできることはありませんかと、橘さんに尋ねてみました。

「困難を抱えている子たちを助けるためには、当然、さまざまな知識や経験が必要になります。私たちでも、たとえば親の暴力を止めさせることは難しい。とはいっても、そんなにハードルを上げる必要はありません。困っている子たちはたくさんいて、その子たちの将来はまだ可能性があるという事実をまずは知っていただきたいです」

 現在、女性の平均寿命は87.45歳(2019年・厚生労働省調べ)。20歳の子には、平均して65年以上の未来が残されています。まだ未来を変えていける年齢なのです。

「もし、困っている子を見つけたら、私たちのような解決を目指せる窓口が世の中にあることを教えてあげてください。それだけでも、十分、世の中が良くなっていくと信じています」

 まずは知ること。そして、困っている子と出会った時には、より安全で頼れる人が存在しているという事実を伝えること。それだけでも日本の未来は変わると話す橘さんですが、ひとつ注意点も教えてくれました。

「どうして危険なのに泊め男のところに行くのかという疑問を感じるかもしれません。しかし、彼女たちが困っているのは、まさに"今"この瞬間なのです。目の前に現れたその選択肢しか選びようがない。だから諦めとともに、そちらに行ってしまいます。そんな彼女たちに、『後から助ける』とか、"きれいごと"は通用しないのです」

 自粛期間まっただ中の2020年の4月、橘さんはとある地方の女の子から相談されたそうです。東京に呼ぶこともできず、橘さんたちも遠距離移動ができなかったため、なんとか地域の相談所を探し出し、コンタクトを取りました。しかし、そこで返ってきたのは「もっと状況がマシになってからではダメですか」という言葉でした。

「窓口がコロナ禍で大変なことは理解できますが、私たちからすると、こんな時だからこそ深刻な状況の子がいるのです。"今"対応しなければ、その子はもっと困ったことになってしまう。もう二度とコロナ禍のような事態は来てほしくないですが、次に何かが起こった時に同じことを繰り返してはならないと思っています」

彼女たちの人生は、悲しいことばかりでない。うれしいことや楽しいことを、一緒にもっと増やしたい。

「ともすると、困っている子たちは、かわいそうとか、悲しい子のように扱われてしまいます。しかし、その印象は正しくありません。私は彼女たちと一緒に悲しみましたが、ともに喜ぶこともたくさん経験してきました。悲しみの原因を遠ざけ、会う人を変えていく。環境を健全にしていくことで、彼女たちは回復していき笑顔を取り戻していくのです」

 BONDプロジェクトでは、保護している女の子たちが自立を目指して暮らすシェルターを完備。いまも、5人の女の子たちが、明るい未来を目指して、それぞれのペースで歩みを進めています。

「『BONDの家に来てよかったことは?』と、とあるスタッフがいま住んでいる子に尋ねていました。その答えは『おかえりとただいまがあって、温かいごはんがみんなと食べられること』でした。本当にシンプルなことですが、そのような暮らしが人間にとっていかに大切かを物語っています」

 失敗して落ち込むことは誰にでもあります。でも、休むとまた次の日から頑張れる。いわゆる健康的な普通の暮らしを体験してもらうことこそが、BONDプロジェクトのシェルターで行われていることです。

「これまで短い子で半年、長い子は2年かけて回復し、自立していきました。その2年間かけて回復した子のいまの仕事は、BONDの相談員。自らの経験を生かして支援側として活躍しています。回復のモデルケースにもなると思うので、すごく素晴らしいことですし、何よりも本人の心に輝きが戻ったことがうれしくて」

 コロナ禍のある日、BONDプロジェクトに相談していた女の子が出産をしたそうです。いま、その新米のお母さんは、子育てに奮闘中。かつて孤独の中で助けを求めていた状況から回復し、新しい一歩を踏み出しました。

 今日も、橘さんとBONDプロジェクトのスタッフたちは、瀬戸際の命を少しでも安全な場所に保護し、「聴く、伝える、繋ぐ」という方針のもと、ひとつでも生きている喜びを増やそうと奮闘しています。

スタッフたちと写真に収まる橘さん。この笑顔がたくさんの女の子たちを救ってきました。


■ 橘ジュン(たちばな じゅん)

NPO法人BONDプロジェクト代表、ルポライター。2006年にフリーペーパー「VOICES」を創刊、少女たちを中心に3,000人以上もの声を届けてきた。2009年、この活動をきっかけに10代、20代の生きづらさをかかえる女の子たちを支える同NPOを設立、"動く相談窓口"として全国各地を飛び回っている。2020年10月には横浜市中区に神奈川県の10代、20代女性のための相談室をオープン。
https://bondproject.jp/index.html

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