

明日をつくるつながり
子どもが生まれ「親」になると、何かと悩みが生まれてくるもの。今まさに悩んでいる方に寄り添える存在がいれば、より良い社会が実現するかもしれません。MOTHERS編集部の小脇美里編集長(以下、小脇さん)は、「ママであることが女性のキャリアの一つとなるように」という思いから、さまざまな悩みを抱えるママたちに向けてポジティブになれるような情報を発信しています。未来を担う子どもたちにとっても心地よく暮らせる社会にするため、小脇さんはどのようなことを心がけているのでしょうか。
母親が専業主婦だったという小脇さんは、常に家にいて、子どものことをサポートしてくれた母親をとても尊敬し、専業主婦に憧れを持ち漠然と自分も専業主婦になるのだろうと思っていたそうです。しかし彼女は今、複数の仕事を抱えながら2児の母として奮闘する日々を送り、多くの働くママの憧れのロールモデルとなるほどの存在に。専業主婦になると思っていた彼女が、どのようにして今のように仕事と子育てを両立するようになったのかを伺ってみました。
「27歳で結婚した当初は、結婚したらすぐ子どもを産んで、仕事を辞めて専業主婦になって…と思い描いていたので、自分でもこのような生活を送るとは思ってもみませんでした。実は、結婚し子どもを授かるまでに5年以上の時間がかかって。夫がとても忙しかったので、自分も寂しくないようにと、がむしゃらに仕事をしているうちに、ありがたいことに編集者としてさまざまな仕事をさせていただき、キャリアが積まれていました。いざ妊娠して子どもを産むとなっても、継続してお仕事をいただいていたので、正直辞めどきがわからないまま仕事を続けていたのがリアルなところです。よく意外と言われるのですが、大学では幼児教育を学び、幼稚園・保育士の資格を取るほど子どもが好きなので、とにかく子どもとずっと一緒にいたいという思いが強く、子どもが産まれてからはずっといつ仕事を辞めようかと悩んでいたんですよ(笑)」
そんな小脇さんは、仕事と育児を両立するために子どもを1歳から保育園に入れると決めたものの、入園までにとても悩んだそうです。自分自身が幼いうちに保育園に通った経験がないため、幼い子どもを保育園に預けていいのだろうかという葛藤があったからです。
「入園申込までは20園くらいに見学にいき、保育園の送迎時間に近くに張り込んで保護者や園児の様子を見て雰囲気を掴もうとしたりしました(笑)。悩んだ末に息子は1歳から保育園に預けましたが、世間では『保育園に子どもを預けることはかわいそう』という声も少なくないですし、自分自身も専業主婦の母に育てられ幸せだったという記憶があったので、正しい選択なのか葛藤するばかりでした。
入園直後は子どもがよく風邪をひいていたので、仕事中でも園から呼び出しがあったり、そもそも保育園に行けなかったり、このまま本当に通わせ続けるのか真剣に悩んだこともありました。でも、息子が本当に楽しそうに保育園で過ごす姿や、先生方がまるで自分の子のように大切に思ってくださる姿を目にして、考え方が変わりました。もし1歳で保育園に預けていなかったら、きっと息子は私と夫、祖父母くらいしか日常的に関わる大人はいないはず。でもこの子にはもう20人以上も、息子のことを日々本当に大切に考えてくださり、成長を共に喜んでくれる大人に囲まれている。『こんなに幸せなことってあるのかな?』と気づいたんです。息子が保育園という場所でたくさんの人に愛されていることを実感した時に、自分の中で答えが出ました。
私は専業主婦の母によく育ててもらったからこそ、仕事と育児を両立する自身のやり方が腑に落ちない部分もありました。でも子どもが3歳くらいのときに、母親から『大丈夫、ちゃんと育っているよ。仕事をしながら子育てするあなたを心から尊敬している』と言ってもらったときに、自分のやり方は間違いではなかったのかも…と自信が持てたのです。」
小脇さんが編集長を務めるMOTHERS編集部では、初のパパデスクも誕生。性別を問わず、広い情報発信を心がけています。
より良い育児を追求するために情報収集を始めると、自分の中に理想像が出来上がってしまうことがあります。それを追いかけすぎてしまうと、「自分はあれができていない」「もっと頑張らないと」と思ってしまいがちです。特にSNSや雑誌記事などで育児や家事を完璧にこなす方を見ると、自分の現状と比較して落ち込んでしまう方もいると思います。
小脇さんは「キラキラして見えるママさんたちも、見えないところで同じように悩んで、もがきながら毎日を過ごしている」と言います。
「お仕事でお子さんがいらっしゃる方とご一緒することもあります。メイクやファッションも整えて、SNSでは誰もが憧れるような生活をしているように見えるタレントさんが『今日のご飯どうしよう』と悩んでいたり、仕事が終わったらすぐ保育園に『ごめんなさい、5分遅れます!』と連絡して慌てて帰っていく姿をよく目にします。そんな光景を見るたびに、どんなに輝いて見える方も、裏側ではみんな育児に関する同じような悩みを抱えているんだなと改めて認識します。みんなどこかで折り合いをつけて、育児とその他のことを両立させようと工夫をしているんです。育児や家事はすべてを自分で完璧にやらないといけないわけではありません。
私の場合は、家庭と仕事を両立させるためには徹底的に時間と効率を分析するようにしています。自分の中で手を抜いてもいいところと、譲れないところもしっかり決めました。たとえば料理なら、以前は『絶対イチから手作り』と決めていたんです。うちの息子は餃子が好きなのですが、平日は忙しくて餃子を包む時間はとれない。でも焼いてあるお惣菜を買うのは、個人的に出来立てのパリパリ感が出せなくて好きになれないのでNG。とても美味しい冷凍餃子をお取り寄せして、自分で焼くのはOK。このようにとんでもなく細かいですが、自分の中で『手作り』として許容できる範囲を少しずつ広げていきました。
基本、我が家は夫が忙しく育児はワンオペなので、週末に子どもとお出かけするときに電車に乗るのも一苦労ですが、移動時間のストレスを軽減するためには『今だけは良し!』と思ってタクシーを使うこともあります。掃除も苦手なので、最新家電を探してロボット掃除機に頼っています。私が一番大切にしていることは、子どもと向き合う時間をできるだけ多く確保することです。多少お金がかかるサービスも、子どもとの時間をつくるためなら割り切って使うようにしています。できないことは便利なサービスや、モノ・人に頼ってもいいと思いますし、それが当たり前な世の中になっていければ、困ったり悩んだりされる方も心が楽になりますよね」
産後の女性はホルモンのバランスが崩れてメンタル面も弱くなり、完璧にしようと頑張ってしまう人ほど悩んでしまいがちです。小脇さん自身も、同じような経験があったと語ります。
「長男を出産した産後1年は本当に大変でした。初めてのことなので情報の取捨選択ができず、精神的な余裕がなくなってしまいました。たとえば私は母乳がなかなか出にくいタイプなんですが、『母乳 出ない』でネット検索するときも、本当に欲しい答えは『ミルクでも大丈夫』なのに、逆に母乳育児を推奨する情報が目に入ってしまったり、相談する相手や目にしたメディアによっても内容がバラバラで不安ばかりが募ってしまいました。そんな自身の出産や産後にまつわる経験がMOTHERS編集部を作るきっかけでもあります」
産後に「大丈夫だよ」と誰かに寄り添ってほしい気持ちが強い時期があったからこそ、MOTHERS編集部では、読者が不安を払拭できて、少しでもポジティブで居られるような内容を心がけているといいます。
「子育ての方針や、子どもへの関わり方は人それぞれ違います。MOTHERS編集部のメンバーは、キャリアも子育ての方針も本当にそれぞれ。あらゆる人のロールモデルとなれるように、いろんなメンバーの意見を取り入れるようにしています。読者の方には、決して一つの考え方を押し付けずに『こういう考え方もあるんだよ』と、あらゆる体験談をもとに、自分に合っていて良いなと感じるやり方をバイキング形式で取り入れてほしいと思っています。
悩んで苦しんでいる方に少しでも『大丈夫だよ』『そのままでいいんだよ』というメッセージを伝えて、読んだ後に少しでも心が前向きになれるような情報をと思ってメンバーと共に発信を続けています。
一般的には子どもができるとキャリアダウンすると思われがちですが、子育てをしているからできることや分かること、伝えられることはたくさんあると思っています」
MOTHERS編集部のスタッフには、元からキャリアがあった方、子育てを始めてからお仕事を始められた方のどちらもいらっしゃるそう。中には、専業主婦として子どもの中学受験に向き合い、子どもを希望の中学校に入学させた後に教育関係の講師になった方もいます。キャリアがスタートするチャンスは、どんな状況の方でもあり得るのです。
「育児をする上で身についた考え方やスキルが、社会にとって必要になることは何かしらあるはずです。そこで培った知識や出会いが、新しい接点を生むことも多くあります。もっと自分の可能性を信じて、子どもがいるから何かを諦めないといけないと思う必要はないと思っています。」
子どもへの関わり方は人それぞれ異なり、また正解もありません。MOTHERS編集部は、子育てで悩んでいるすべての家族にそっと寄り添ってくれる存在となっています。
MOTHERS編集部は、株式会社サンリオエンターテイメント、国連人口基金と共催し、女性のQOL向上を目指す「Let‘s talk! in TOKYO」に参加してその中のプロジェクトの一つとして「たいせつなからだについての本」を制作しました。このプロジェクトが発足するきっかけは、子どもたちに「成長とともに発達する性について知ってもらい、人や自分の身体を大切にすることにつなげてほしい」という想いがあったからだそう。この本は「性」と「身体」について知ることのできる、性教育系の絵本で、子どもだけでなく世代を超えて誰もが読めるわかりやすい内容にしていると言います。
「たいせつなからだについての本」。クラウドファンディングの賛同者へのリターンのほか、図書館や施設に寄贈されています。
「性教育にまつわる環境は、日本は諸外国に比べて本当にまだまだ遅れていると思っています。自分の子どもが性教育を学ぶにあたって、環境をかえていかなければと思ったことが絵本をつくるきっかけの一つです。私自身も、性の話題についてオープンにすることは少なかったタイプです。なんとなく避けてしまう風潮や、学ぶことが恥ずかしいというマインドが、性教育を阻んでいると思います。実際はそうではなくて、身体や性についてよく知ることは、自分の身体や心を大切にすることにつながるんだと認識することが必要なのだと、強く感じました。
その想いをきっかけに、息子には3歳くらいからずっと性教育の絵本を読み聞かせていました。現在、小学校1年生ですが、私が生理の時に「お腹痛いんだよね、大丈夫?」と言葉をかけてくれて、同級生がふざけて言った性的な言葉に対しても「それは良くない言葉だよ」と教えてあげる姿を見ることができ、正しい知識を身につけてくれたのだと嬉しくなりました。
これからも子どもにも自分のこと、相手のことを大切にするために、性をタブー視せず、正しい知識を身につけてほしいと思っています」
すくすく育つ子どもたちを見守っていくためには、何らかの身体の不調により、今と同じ暮らしができなくなってしまう場合のことも考えておく必要があります。小脇さんは、そのようなときも想定した備えをしていると語ります。
「私が一番重きを置いているのは、家族の健康です。健康に関しては何かあってからでは遅いので、家族の体調管理に向けた備えはしっかりしています。とくに保険が好きで、いろいろ入っていますね。まわりに忙しく働いている人が多いので体調を崩してしまっている人も多くいます。家族に負担をかけないためにも、適切な備えは大切ですね」
保険の加入や早期性教育の実施など、子どもと家族の未来を見据えた備えを大切にしている小脇さん。そこには知人の言葉が影響しているようです。
「以前『子どもと今みたいに一緒に居られるのは、10歳ぐらいまでだからね』と言われたことがありました。上の子はもう7歳なので、今みたいにべったり『ママ〜』と言ってくれたり、一緒に居られるのはあと3年ほどかと考えた時、もう今はとにかく子どもたちを第一優先として、一緒に居られるときはできる限り一緒にいて、同じ時間を楽しもうと思いました。
たとえば、週末には他の予定を入れずに絶対に子どもと出かけると決めています。
ただ、たまに一人でリフレッシュしたい時もあるので、そんなときは大好きなコーヒーを飲んだりチョコレートをたべたり、好きな音楽を聴きながら気持ちをリフレッシュさせていますね」
育児と仕事を両立する中で、不安に思うことや、一人ではどうしようもないと感じてしまうことは多くあると思います。
小脇さんのお話の中で、印象的だったのは「自分がこうしないといけない」と思い込んでいることも俯瞰してみてほしいというメッセージです。
「たくさん悩んだからこそ、誰かの決めた『普通』や、他の方の価値観に惑わされて勝手にストレスを抱えてはいけないなと気づきました。今は簡単にあらゆる情報が手に入る時代だからこそ、その情報に戸惑うことも多くあると思いますが、やはり一番大切なのは自分の軸をちゃんと持って、ママが笑顔で居られることではないでしょうか。ママが笑顔でいたら家族も同じように笑顔で楽しく過ごせると思うんです。
どうしてもまだまだ育児と仕事の両立が大変に捉えられてしまいがちな世の中だからこそ、MOTHERS編集部では『子育てってこんなに楽しいし、ママが仕事のキャリアを重ねることもこれだけ意味があることなんだよ』と少しでも伝えていけたらと思っています」
育児も仕事も両立するためにあらゆる悩みや困難を乗り越える上で、ご自身らしく楽しむ暮らし方を見つけ、活躍される小脇さん。小脇さんのお話を通して、苦労を経たからこそ身につけた自分が大切にしたい想いや、やりたいことを貫く姿勢が、自分自身を大切にすることにつながり、小脇さんに関わる方々にとっても救いになるのだとわかりました。
頑張りすぎず、今を楽しんでほしいという小脇さんのメッセージは、同じ境遇の方やこれから同じ道を歩む方々にとって支えになる言葉だと感じました。
「MOTHERS編集部」編集長。
数々のヒットを生み出すヒットメーカーとして経済界からも注目を集め、令和初のベストマザー賞・経済部門受賞。鯖江市顧問/SDGs女性活躍推進アドバイザー。2児の母。また2021年からは食品のサブスクリプションサービスを運営するオイシックス・ラ・大地株式会社の社外取締役にも就任。
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