

明日をつくるつながり
内閣府の政策として、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」が定められています。仕事と生活の調和、そして経済成長は「車の両輪」とたとえられ、生産性の向上、経済活性化も視野に入れることで、持続可能な取り組みとして推進されています。これらの制度は、誰もが生き生きと暮らしやすい社会につながると考えられ実施されています。
同様の考え方をもとに会社を創り上げているのが、株式会社FinT(以下、FinT)代表取締役の大槻祐依さん。大槻さんは、社内のメンバー同士がコミュニケーションを取り、お互いを補い合う関係を構築することで「誰もが自分らしく生き生き過ごせる」環境をつくられています。同社は大槻さんが大学在学中に「社会を変えていきたい」という思いからフィンテック(「ファイナンス(金融)」と「テクノロジー(技術)」を組み合わせた造語)系スタートアップとして活動を始め、現在は女性向けメディア「Sucle(シュクレ)」の運営をはじめ若年層の強みであるSNSを活かした事業展開により、年々成長を続けています。
アクティブに働くうえで、どのような仕組みを取り入れ、生き生きとした暮らしにつながる会社づくりを目指しているのか、大槻さんにお話を聞いてみました。
「一人ひとりが自分の強みを理解し、発揮することが、楽しみながら働く環境につながります」
そう語る大槻さんの経営するFinTは、2022年3月に創業5周年を迎えました。これを機に、会社としての存在意義(パーパス)を実現するための行動指針「パーパス・ミッション」を「みんなの強みを活かして、日本を世界を前向きに」とし、個々の強みを大切にした経営を推進しています。
「自分ではなかなか気づけないかもしれませんが、誰にでも強みはあります。私は、メンバー一人ひとりの強みを見つけ、伸ばしていく環境づくりを特に大事にしています。そのためにはメンバーのことを知らなければいけないので、積極的にコミュニケーションを取るようにしています。新入社員の方には『社長との距離が近い』と驚かれるほどです」
また、本人も気づけていない「自分の強み」を知ってもらうために、大槻さんはメンバーの強みを発見したらその場で伝えるようにしているといいます。
「もともとアイデア出しがうまかったインターン生が、まわりからその強みを指摘されたことで、さらに活発にアイデアを出してくれるようになり、インターン生からプランニングのリーダー的なポジションにまで成長してくれたこともありました」
SNSメディア「Sucle」https://fint.co.jp/sucleは、「きょうのわたし、愛しいわたし」をコンセプトに運営。投稿を見た女の子たちが自身の生活に取り入れることで、自分自身や生活を今より少し“愛おしく”思ってほしいという想いから、“頑張れば誰もが真似できる”0.5歩先のコンテンツを発信しています。
人の強みに着目するというお話をお聞きできたので、人の弱みを補うにはどうしたらいいか伺ったところ、意外な答えが返ってきました。
「わざわざその人の弱い部分を伝える必要はないと考えています。自身の弱い部分を自覚して、なくすように心がけることも大切かもしれませんが、悪い部分にばかり注目するとどうしても落ち込んでしまいます。自身の弱い部分に悩んだり、直すために時間を使うよりも、逆に強みを磨いたほうが前向きなマインドで成長できると考えています。なにより、人の強みは誰かのためになると思っているので、人の弱い部分を強みで補完していけばいい。そのような動きをチーム全体でおこなうことで、会社がどんどん前向きになっていくのではないでしょうか」
たとえば自己肯定感が低いという特性は、視点を変えれば課題を見つけることが上手であったり、謙虚に行動できる人と捉えることもできます。このように発想をプラスに変えていくことで人の強みを見つけやすくなるといいます。
「みんなの強みを活かして、日本を世界を前向きに」という想いを叶えるためには、時にはチャレンジが必要です。FinTには「ナイストライ」というカルチャーがあります。これは、プロジェクトなど新しい挑戦をする過程で、失敗することやうまくいかないことがあったとしても挑戦したメンバーに対して「ナイストライ」と伝えるカルチャーだそう。失敗を責めるのではなく、挑戦を評価するような雰囲気づくりを会社全体でおこなっているのです。
FinTが掲げる17の行動指針。
大槻さん自身も積極的にチャレンジし、何度も失敗を重ねているとお話します。しかし、そのたびに周囲のフォローにより立ち上がっている経験から、このカルチャーが生まれたのです。失敗を責めてしまう環境ですと、発言がしづらくなり事業の発展の可能性が後退してしまうと考えられているようです。働きやすい環境づくりに向けて「重ねた失敗による成功」という考え方を身に付けることが大事といいます。
「以前、サステナブル商品を販売するモールの新規事業の立ち上げがうまくいかなくなり、1年後に閉鎖となったことがありました。プロジェクトに携わったスタッフは落ち込んでいましたが、その経験も「ナイストライ」と捉えたことで、プラスの側面に目を向けて、次の展開につなげる考え方にシフトすることができました。またプロジェクトを通して、そのスタッフはスタイリングやブランディングが得意だと気づけた点も大きな成果でした。今もその分野を強みとして活躍してくれています。「ナイストライ」とチャレンジを評価できることは誰もが前向きになるために大切だと思いますし、FinTにはずっとこのカルチャーが残っていってほしいと思っています」
仕事中の大槻さん。スタッフに積極的に声をかけ、各々の強みを引き出しています。
とてもアグレッシブな印象の大槻さんですが、ときには無理をしてしまうこと、つらくなりエネルギーが湧かなくなってしまうこともあるそうです。そのようなときは、どう切り抜けているのでしょうか。
「日頃から自分と向き合い、どんなことで落ち込んだり辛いと感じているのか理解することを心掛けています。そうすることで、自身の限界が訪れる前にメンバーにあらかじめ伝えて休みを入れて回復するなど、事前に対策につなげることができます」
落ち込んだり辛いと感じることは、誰しもに起こることです。特に働いていく上でも、ライフステージの変化により、心身に思わぬトラブルが起きてしまう可能性もあります。
「たとえば子どもができたことで仕事を辞めるなど、ライフステージのことを考えた選択をされる方がいることも理解しています。もちろんそれも大切なことですが、まだ起きていないことに備えすぎて、本当はやりたかったことを諦めて、自身の可能性を狭めてしまうのはもったいないと考えています。やりたいことはできるうちにやった方が良いと思いますし、会社としても突然の事情で休暇が必要になるスタッフをサポートする体制づくりを積極的に進めています」
「『自分はここまでしかできない』と決めつけてあきらめるのではなく、切り拓いていくことが大切。そのためにFinTでは、自分自身と向き合い、メンバーともコミュニケーションを取りあうことでお互いのことをよく知るようにしているんです。そうすることでお互いの状況を理解し、お互いが働きやすいようにサポートしあえる関係性ができると考えています」
常に「一人ひとりの強み」に目を向け、前向きにチャレンジを続けるFinTは、このマインドを会社だけではなく、日本全体に広げていきたいといいます。
「地方創生のためのアイデアがどんどん生まれているなど、日本にはあまり知られていない日本独自の強みがたくさんあります。その強みをもっと海外の方にも知ってもらいたいと思いますし、そのためにはもっと発信していくべきだと考えています。FinTのメッセージを『みんなの強みを活かして、日本を世界を前向きに』に変更したのも、このような想いからきています。今年は、このメッセージの実現に向けて、海外進出に動き出す年にしていきます」
自分らしく生き生きと過ごし、若くして活躍される大槻さん。大槻さんのお話から前向きに活動していくためのたくさんのヒントを教えていただきました。
関わる方一人ひとりの”自分らしさ”を理解し尊重すること、お互いの強みでお互いをフォローし合う姿勢、そして挑戦する方々に向けて「ナイストライ」と言葉を伝えることで、前向きに活動し続けたいという想いは、今の時代を生きるZ世代の一人である大槻さんだからこそ生み出せる、新しい支え合いの形なのではないかと感じました。
株式会社FinT代表取締役。早稲田大学在学中の2017年3月にFinTを起業。「みんなの強みを活かして、日本を世界を前向きに」というパーパスのもと、総合フォロワー数90万人の若年層女性向けSNSメディア「Sucle(シュクレ)」の運用やパートナーマーケティング事業を展開。さらに、2021年6月には歌手・AIさんとともに、SDGsに関するInstagramメディア「Take Action for Peace」を開設。
https://fint.co.jp/