明日をつくるつながり

誰もが自分らしく生き生きと暮らしていくために

一般社団法人日本フェムテック協会代表理事山田 奈央子さん

ヘルスリテラシーの向上が、働きやすさにつながる。

2021年の新語・流行語大賞にノミネートされた「フェムテック」。女性(Female)と技術(Technology)を掛け合わせた造語で、月経や出産、更年期など、女性のライフステージにおけるさまざまな課題を解決するための製品・サービスのことです。
フェムテックは社会的にも注目され、大企業やスタートアップ企業の参入により、月経周期を予測できるアプリ、オンラインでの婦人科検診、生理用品を使用しない吸水ショーツなど、近年多くのプロダクトが生まれ、市場が急成長しています。地域の住民の方に向けてフェムテックサービスを展開する自治体も出ています。

そんなフェムテックの推進に向け、「自分のからだとこころを知ることで、一人ひとりが活躍し相互理解が当たり前のウェルビーイングな社会を実現する」というビジョンを掲げて活動をしているのが、日本フェムテック協会です。代表理事を務める山田奈央子さんに、誰もが生き生きと暮らせる社会の実現に向けて、協会の活動を通じて見えてきた課題、自身の健康状態を把握することの大切さについて伺いました。

ヘルスリテラシーを高めるためには、自分を知り、相手を知ることが大切

 日本ではあまり馴染みのない「ヘルスリテラシー」という言葉。「ヘルスリテラシー」とは、健康や医療に関する情報を知り、活用する能力のこと。
 性別問わず、ライフステージによる身体の変化について知ることは「ヘルスリテラシー」の向上につながることだといいます。
 「現在の日本のヘルスリテラシーは、欧米やアジア諸国と比べても低いと言われています。実際に、フェムテック製品についても知らない方が多く、良い製品が開発されても手に取ってもらえないことも多くあります。理由としては、自分には必要ないと思ってしまったり、健康にまつわる知識が不足しておりそもそもサービスにたどり着けていない方が多いことが想定されます。」
 それでは、ヘルスリテラシーの向上に向けて、具体的にどのように知識を身につけていけばよいのでしょうか。

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日本フェムテック協会のロゴ。包み込むような手、ハート、女性のシルエットを模していて、様々な色が重なり合うことで、多様性や感情など女性それぞれが持つ個性を表現しています

 「セミナーなどの際にお話を聞いていると、自分自身の身体の健康状態をわかっていない方があまりにも多いことを知りました。自分自身について知る前に、まずは自分の生涯において起こりうる身体の変化を知ることが大切だと考えました。変化が訪れる前に知っておくことで、予防のための対処法を考えやすくなります。そうすることで、自身のこともそうですし、つらい思いをしている人がいれば、その人の状況を理解できるようになります。ヘルスリテラシーを高めることは共感や相互理解につながり、結果的に誰もが生きやすく働きやすい社会にもつながると思っています。」

 また、山田さんご自身も病気のご経験を通して、今の考え方の基礎につながっているとお話しいただけました。
 「私は以前、婦人科の病気で入院し手術をした経験があります。身体の違和感に気づいてはいたのですが、日々の忙しさの中で時間がとれず、すぐには病院に行きませんでした。その後、生活習慣の見直しや、食事を変えてみるなどの工夫をしたものの改善しなかったため、やっと通院を始めたのです。幸いあまり悪化せず回復できましたが、通院が遅れていたら大事になっていたかもしれないと思うと、早く病院に行けば良かったと今でも後悔しています。なので、同じ状況の方には、少しでも違和感を覚えたら早期に病院に行って欲しいと伝えるようにしています。自身の病気を経て、自分の体調のことを理解できるからこそ仕事に集中できるし、やりたいことにもチャレンジできると気づきました」
  まずは自分の身体の状態を知ってみる、そこから始めることが大切と山田さんは語ります。

働く女性たちの健康に対する意識とは

 男女共同参画社会基本法や女性活躍推進法といった法整備が進み、女性の働きやすさにも変化が生まれました。働く女性の健康面への意識にも違いは生まれているのでしょうか。

 「私は健康経営のアドバイスやセミナーなどを企業などで行い啓発しているのですが、男女関わらず、健康に配慮した会社の制度や文化が、広がってきていると感じています。
 しかし、こういった制度や文化も、まだ十分に浸透しているとは言えません。たとえば生理期間の就業が困難な全ての女性が取得できる休暇として「生理休暇」が労働基準法で定められているのですが、国内の女性労働者の取得率はわずか0.9%。月経の周期や痛みは個人差があり、また女性同士でもセンシティブな問題だからと話題にすることが少ないため、自分ごととして捉えづらく、共感が得にくい点が課題だと考えています」

 生理休暇に関わらず、こうした課題を解決するためにはヘルスリテラシーを高め、誰しもに起こり得る事象なのだと理解することが大切です。
 また健康に配慮した会社の制度づくりを推進していくためには、管理職などリーダーポジションとなる方のヘルスリテラシーを高める必要があるといいます。企業によっては管理職以上のヘルスリテラシーに関するセミナー受講を必須としているところもあるそうです。

 「たとえばヘルスリテラシーのセミナーを受けることで、男性管理職の方も、月経や更年期といった女性特有の身体の変化に理解を示すことができるようになった例もありました。
 全社員が同レベルの知識を身につけるのはすぐには難しいかもしれませんが、中間管理職以上の方だけでも健康にまつわる知識を身につけるだけで、会社の環境が変わってくるというのは、さまざまな企業を見ている中で感じたことですね」

日本フェムテック協会が伝えたいこと

 多くの企業の変化などを見てきた山田さんが代表理事をつとめる日本フェムテック協会では、フェムテック協会認定資格を実施しています。ヘルスリテラシーを上げたいけれど、どのような情報を取得すればいいかわからないという方でも挑戦できる、女性の健康に関する知識の高さを認定する資格です。認定試験は1〜3級まであり、これまでに1万人以上の方が受験しているそう。
 「受験される方はご自身のヘルスリテラシー向上のため、フェムテックビジネス関連、企業の人事関係の方と、主に3タイプの方々がいて、参加される割合はきれいに1/3ずつに分かれています。年齢は、30代後半から40代の方が多いです。現状を変えていきたいと、次世代のリーダーとなる方々が増えていることを実感し嬉しく思います。」

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日本フェムテック協会認定資格3級は15問の選択式のテスト。Webで無料で受験できるので、自分の知識量を確かめたい方は、まずここからチェックしてみては。

 インターネットやスマートフォンの普及により、健康や医療に関する情報が仕入れやすくなっている反面、真偽を確かめられないものも多く、正しい情報かどうか個人では判断が難しい状況です。山田さんも、自身が情報を集める中で間違った内容の記事を読み、戸惑ったことがあるといいます。
 誤った情報に流されないためにも、正しい知識を身につけ、自分や周りの人の健康状態を正しく理解することが重要になってくるのです。

より良い社会のために、「知識」と「人」を味方につけよう

 山田さんは、若い世代に向けたヘルスリテラシーの啓発にも力を入れています。特に企業に入社したばかりの方は頑張り過ぎるあまり、身体を壊してしまう人もいます。このように仕事を始めたばかりで頑張りたいと思っている方々に「健康について学びましょう」と言っても、なかなかそういう気持ちになれないものです。

 「たとえば生理と出張が重なってしまった場合、社会人一年目だとなかなか『痛い』や『辛い』と言い出せないケースも多いですよね。でも、ピルを処方してもらうという選択肢を知っていれば、乗り越えられる可能性も高くなります。
 このような健康に関する基本的な知識は、社会人になる前に学んでおくと良いと思っています。私たちは、大学でヘルスリテラシーに関するセミナーをやらせていただいているのですが、大学からの引き合いが多くなっているのを感じています。あくまでも仮説ですが、健康に関する知識は一生の財産になると同時に、自分のヘルスマネジメントができる方は、採用にも優位な側面があると考えています。ヘルスリテラシーが高いと健康面においてセルフマネジメントができますし、頑張り過ぎてダウンしてしまい、働けなくなることもありません。それは働く方だけでなく、採用する企業としても安心につながるファクトになるのではないでしょうか。」

 ご自身の経験から、自分がやりたいことをするためにも、まずはヘルスリテラシーの向上が必要と感じ、あらゆる取り組みをおこなわれている山田さん。それは、自身を守ることにもつながると同時に、社内の相互理解につながることとお話ししてくださいました。 ヘルスリテラシー向上への第一歩は、自身のヘルスリテラシーがどの程度のレベルなのかを知ることが大切とのこと。
 人生100年時代といわれる現代で、個々人がヘルスリテラシーを高めて健康に関する正しい知識を得ることは、誰もが健康で長く活躍できる社会に不可欠です。山田さんのお話を通して、自身の健康管理をし、周囲の方の健康状態への理解を深めていくことの積み重ねが、働きやすさや生きやすさにもつながっていくことに気づくことができました。

山田 奈央子

一般社団法人日本フェムテック協会代表理事。大手下着メーカーで下着の企画・開発を行った後、世界初の下着コンシェルジュとして独立。株式会社シルキースタイルを設立し、女性特有のお悩みに寄り添ったインナー、コスメ、健康雑貨などの商品企画開発を17年間行う。2021年に、医師、経済人、医療ジャーナリスト、キャリアコンサルタントらと共に(一社)日本フェムテック協会を設立。代表理事として女性特有のゆらぎに寄り添うためのウィメンズヘルスリテラシーの重要さを雑誌・TV・企業・行政などで周知する活動をしている。2男の母。
https://j-femtech.com/
なお、日本フェムテック協会では2023年2月19日(日)に無料オンラインイベント「JAPAN FEMTECH SUMMIT2023」を開催。山田さんも登壇し、「フェムテックの力でウェルビーイングな社会を創る」をテーマに、フェムテックの最新動向の紹介やトークセッションなどを通じて、“フェムテックで目指す未来”についてディスカッションします。
https://j-femtech.com/femtech_summit2023/

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