明日をつくるつながり|新しい生活様式の中で
ぶんじ食堂

FEATURE | 明日をつくるつながり | 新しい生活様式の中で

ぶんじ食堂


そもそもが「密になろうよ」という取り組み。芯は変えず、時代に対応する。

 こんな時だからこそ、人とつながりたい、気持ちを伝え合いたい。その思いが募っていく中で思い出したのが、東京都国分寺市内で流通している地域通貨の「ぶんじ」。お金であり、メッセージカードでもあるという不思議な地域通貨で、やさしさや丁寧な仕事への感謝の気持ちを書いて使います。

「ぶんじ」は提携しているお店やサービスで使えますが、代表的な取り組みの一つに「人」「場所」「食材」など、できることをみんなで持ち寄り、「ぶんじ」だけでも、ご飯の食べられる「ぶんじ食堂」があります。固定の場は持たず、営業時間外のさまざまな店舗やスペースを借りて不定期で開催されてきました。

 いま、「ぶんじ」や「ぶんじ食堂」はどのようになっているだろう。そう思って連絡を取ったのは、「ぶんじ食堂」の中心メンバーの一人、永井千春さん。「地域通貨ぶんじプロジェクト」の事務局メンバーでもあります。

「人と人が気軽に会えない、言葉を交わせない。まさかこんな世の中になるとは、誰も想像もしていなかったですよね。孤食や、食品ロスなどの課題解決、地産地消の推進など、『ぶんじ食堂』が大事にしていることはいろいろありますが、みんなでご飯を食べること、食を通じて、人と人とのゆるやかなつながりを育てることもその一つ。誤解を恐れずいえば、『密になろうよ』という取り組みです。コロナ禍にあって、どう開催を続けていけばよいのか、すごく悩みました。ですが、withコロナでも、afterコロナでも、『ぶんじ食堂』として大事に思うことは変わらないという気持ちはありました」

ぶんじの仲間である「カフェローカル」が急遽休業になり、食材の行き場がなくなった際には、その食材を利用した「ぶんじ食堂」を「クルミドコーヒー」で実施。

予想もしなかった利用者の増加と、「オンラインぶんじ食堂」で生まれたつながり。

 緊急事態宣言が解除され、新型コロナウイルスへの感染予防対策を施しながら、営業を行ってもよい状況になりましたが、まだまだ、人が自由に集うことのむずかしさが残ります。「ぶんじ食堂」はそうした問題にどう向き合っているのでしょうか?

 「ぶんじ食堂」に「場」を提供しているお店は市内に6店舗ほどありますが、コロナ禍で活動を自粛せざるをえないお店もあり、現在、その中心は「おばあさんの知恵袋」という絵本&カフェ。立ち上げ当初より、月に一度、毎月、欠かさず、開催してきた場です。本来、ここのキャパシティは12名ですが、今は5名に限定し、オンラインによる参加と組み合わせて、開催されています。

 オンラインのみ、オンラインとFace to Face、テイクアウト弁当の販売など、社会情勢に合わせ、少しずつ形を変えながらも、人とつながろうという試み。いったい、どのような経緯で「オンラインぶんじ食堂」が始まったのでしょう。

「『ぶんじ食堂』の何を大事にするか。みんなでご飯を食べるということを一番に考えるなら、ZOOMを使ったらどうだろうと閃きました。もちろん、実際に一つの場を共有し、顔と顔を合わせて食事をすることにかなうものはありません。ですが、できないと、立ち止まるのではなく、できることから、動き続けてみることにしたのです」

 当初、永井さんも他のメンバーも「ZOOMまで使って、開催する必要があるのか?」と自問自答したといいます。でも、参加者の声に押され、変わらないためには、変わることも必要なのだと腹をくくったのだそうです。

ぶんじ食堂を「(ZOOMになったとしても)そこまでしてやりたいんだ」と自覚されたという永井さん。

 ZOOMの導入を一旦は決めたものの、そこからまた、試行錯誤の連続。 「場がなごむと、会話がどんどん弾み、話が混線しがち。一方、ZOOMは一対一の音声しか拾えない。日常会話との違いを痛感しました。そこで、ZOOMの特性を伝え、『一人ずつ話をしましょう』『いろんな人が話せるように気を配りましょう』など、回を追うごとにゆるやかな約束事が少しずつできていきました」

 参加者の中には、ZOOMを使い慣れない人もいます。パソコンやスマホといった使う機器を超えて、ダウンロードの仕方や、使い方をレクチャーするなど、思わぬ苦労もありました。でも、永井さんにとっては、多少の労力よりも、つながる未来の方がうれしかったといいます。困っている人を見かけたら細かくフォローして、参加者の輪を広げていきました。

「人間には五感があり、その大半を使って人と会っています。ですから、ZOOMでは伝わらないことがあるのは確か。ただ、そのおかげで子育て中で、家を空けられないお母さんや、国分寺市から遠く離れている人ともつながれるようになりました。ZOOMによってコミュニケーションの取り方に選択肢が増えたことはよかったと思います」

足並みを揃えることに苦労したが、みんなで支え合うことによって実現したZOOMによる集まり。

人々の思いが積み重なってできた、この街の風景を子どもたちに残したい。

 新型コロナウイルスが収束の兆しを見通せない状況下、これまでにはない工夫で、それでも開催を続けてきた「ぶんじ食堂」。そんななか、永井さんにはうれしいことがいくつもありました。

「『ぶんじ』を使う人がなぜか増えました。中には寄付をしてくださる人も。わたしたちにエールを贈ってくださっているのでしょうか。たくさんの気持ちを受け取り、背中を押される日々です」

 また、こんなこともあったといいます。「1年ほど前に初めて国分寺市を訪れてくれた人に、『ウエルカムぶんじ』をお渡ししました。その人が最近、その『ぶんじ』を持って、『ぶんじ食堂』に来てくれたのです。『あの人たち、どうしているのだろう』と思って来られたそうです。その気持ちがとてもうれしく、こころに響きました」

 存在を忘れてしまうと、ただの紙切れになりかねない地域通貨。でも、「ぶんじ」に刻まれた「ようこそ」の気持ちや「ご縁をありがとう」という想いが着実にその人に伝わっていたようです。

 一方、外出自粛によって、大きなダメージを受けた「ぶんじ」の提携店の力に少しでもなりたいと、「地域通貨ぶんじプロジェクト」でクラウドファンディングを行うという経験も。

「クラファンに寄付くださった方々への返礼として、若草色の500ぶんじをお贈りしたのですが、『ぶんじ食堂』にそのぶんじを持って参加くださった方がおられました。ぶんじを見ただけで、何だか胸がいっぱい。クラファン参加店舗のお一人が寄せてくださった、忘れられない言葉があります。『応援していただいたわたしたちには2つの責任がある。コロナ終息後は、しっかりお店を再開させて、継続させる。そして『ぶんじ』の繋がりを大事にしていく。この2つ』」

 「ぶんじ」との関わりを深め、「ぶんじ食堂」を運営していく中で、永井さんにはある一つの思いが芽生え始めました。それは国分寺のこの風景を守りたいということ。「風景といっても街の景観のことではありません。人と人がゆるやかにつながり、互いを思い合って生きるこの街の人の姿。子どもたちにどんな風景を見せてあげられるかは、地域の大人の責任だと思います」

クラウドファンディングの返礼には若草色のぶんじと、参加店舗お一人おひとりからのメッセージが添えられた。

遠かったはずが、今では手が届きつつあるソーシャルキャピタルが高い街という未来。

 このように、人々の思いを乗せ、利用者がゆっくりと増え続けてきた「ぶんじ」には、開始した9年前に描かれたロードマップがあるといいます。

 それはお楽しみ券のようなものからはじまり、ボランティアワークを可視化することが初期の段階。「ぶんじ」によって地域内に新たな経済循環が起こり、日本円ではないもうひとつの経済が生まれ、最終的にはソーシャルキャピタルが高い街になっていくというもの。その未来は現在、どこまで描けているのでしょうか。

「はじめてこのロードマップを見たとき、私には恐ろしく高いハードルに見えました。でも、試行錯誤しながら、コツコツ続けてきた今、少なくとも、私の周辺はソーシャルキャピタルの高い街になり始めているように感じます。1を2にするより、ゼロを1にすることがむずかしい。これまでの活動は無駄ではなかったし、今後もこれまで通り、続けていければ、と、メンバーたちとも話しています」

 何よりも永井さんにとって大きかったのは、「このままで大丈夫」という意識が生まれたこと。これまで「ぶんじ」や「ぶんじ食堂」のできていないことばかり数えていたそうですが、このコロナ禍は歩んできた道を振り返る機会にもなったそうです。

 何度も通う人も、新しくやってくる人も、物理的な距離があって、なかなか会えない人も、垣根を超えてみんなが集まれる場所に「ぶんじ食堂」は変化を遂げつつあります。その根底にあるのは「人は人がいなければ生きていけない」という人間の本質。「ぶんじ」を中心としたゆるやかなつながりが、この街にどんな風景を育てていくのか、「ぶんじ食堂」がその風景の一つになれれば、と永井さんは話してくれました。

この秋からスタートする「ぶんじ寮」では、更に新しいチャレンジに踏み込む。

●前回取材記事「ぶんじ食堂」はこちらからご覧いただけます。


■ 永井千春(ながい ちはる)

岐阜県生まれ。大学の入学を機に上京。卒業後は旺盛な好奇心に任せ、編集、書店員など職を転々とするも、縁あって、当時、PCシェア世界一を誇る外資系企業に入社。グローバリズム、ダイバーシティの何たるかを皮膚感覚で知る。所属する部門の海外移管にともない、早期退職優遇制度にて退職。現在は、国分寺市内の会計事務所に勤めるかたわら、地域活動に力を注ぐ。2018年、「国分寺の未来をつくる3つの事業」の一つとして「ぶんじ食堂」を発案。同年、「地域通貨ぶんじプロジェクト」に創設された事務局のメンバーとなる。

■ ぶんじ寮

社員寮でも、学生寮でもない、まちの寮。食堂施設も整った広い共用部はまちの縁側。子どもにとっても、かつて子どもだった大人にとっても、「安心」と「冒険」とが同居する居場所を一人ひとりの持ち寄りで育てていこうという取り組み。
https://www.facebook.com/bunji.ryo

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