明日をつくるつながり|新しい生活様式の中で
MORIUMIUS

FEATURE | 明日をつくるつながり | 新しい生活様式の中で

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静まりかえったモリウミアスの春。短い夏の再開に全力を尽くした。

 雄勝の山の中に響く、元気な子どもたちの声。あの時、土に触って遊んだり、道具を使って木を切ったりしていた子どもたちは、いまどのようにくらしているのだろう。

 昔ながらのくらしを体験することで、子どもたちに豊かな感性とたくましさを育んできた、石巻市雄勝町のモリウミアス。いつもなら2020年の夏も、子どもたちの声が響き渡る空間になっていたはずです。でも、春の間はずっと静まりかえっていたとのこと。いったいどうしてでしょう。

「7月まで営業を自粛していました。8月の再開後は、滞在期間を短縮した子どもだけで参加するプログラムに絞り、感染症対策を万全にした上で、来ていただいています」と話すのは、公益社団法人MORIUMIUSの代表・フィールドディレクター、油井元太郎さん。

「毎年、2月の下旬から準備を始め、その年の夏の予約も受け付け始めます。今年はちょうどその時に、新型コロナウイルスが広がりつつある状況でした。3〜5月にかけてたくさんのキャンセルが出たため、断腸の思いですべての予定をキャンセルすることにしました」

状況は厳しいと語りつつも、コロナ状況下におけるさまざまな発見を話してくださる油井さん。

 通常ならゴールデンウィーク頃には、夏の予定がフルになってしまうモリウミアス。今年はコロナによる休業に加えて、子どもたちの夏休みが大幅に減少したため、例外中の例外という事態になったようです。

「自粛期間中にも、いつ運営を再開すべきか、内部で検討を重ねました。夏休みには再開しようと、感染症対策ガイドラインを作成し、それを徹底させる方針にしたのです。参加される方々、スタッフ、町の人々を守るためですから、当然のことです」

 宮城県内での感染者は、全国平均からみるとそこまで多くはありません。しかし、高齢化が進む地域には、感染リスクが高い年配の方々が多く住んでおられます。実際に、町外の人が地域に入ってくることに対して、警戒する人もいたため、油井さんはガイドラインを準備されたのでした。

感染に配慮し、二段ベッドも互い違いに使用しているとのこと。

学びの場の継続を考えた結果、現実とオンラインが相性良く結びついた。

 とはいえ、4〜7月は営業を停止していたモリウミアス。これからどうすれば子どもたちに学びを届けられるのかと考えた時に出たアイデアが、オンラインでプログラムを実施することでした。

「まずは、子どもが家庭で食材に関わる背景を学び、料理をつくるプログラムをオンライン化しようと考えました。動いている姿や音声が伝わるZOOMを用いれば、オンラインと食材の掛け合わせで自然の中のサスティナブルを学んでもらえる。たとえば魚なら捌いてもらって、お刺身にして盛り付ける中で、その素材を支えている生態系や生産者さん、環境問題など、背景まで感じられるプログラムにできると確信しました」

いつも研修にご協力いただいている地域の方々。クラウドファンディングの返礼品も地域の特産品でした

 教材として必要になるものは、雄勝町の漁師さんがとった海の幸や、農家の人たちが丹精込めてつくった農作物。モリウミアスにとっては、これまで教材と捉えていたものですが、各家庭にとっては新鮮でおいしい食材そのもの。それならば、クラウドファンディングを使えば、心がこもったおいしいリターンとして成り立つのではと思いついたそうです。

「そもそも、モリウミアスは非営利組織。寄付をいただいて活動をすること自体、正常な事業の流れです。また、子どもたちの体験を支えてくれている漁師さんや農家さんたちも、その当時は販売先がなくなって困っていました。」

 これまで地に足を付けて活動を続けてきたからでしょう。想定を上回る申し込みがあり、生産者と各家庭がともに笑顔になる機会を生み出すことに成功しました。

 海、畑、山などのさまざまな食材を送った中で、最も人気だったのは銀鮭。丸まま一匹が届きます。発泡スチロールの箱を開けてみると、見たこともないほど大きな鮭に、子どもたちはもちろん、家族全員がびっくりして大喜び。「早くプログラムを受けたい!」と心がわくわくする展開を生み出したのでした。

来てもらうではなく、家庭に入るというオンライン授業の可能性。

 食材を利用して、教育にまで落とし込むのがモリウミアスのオンラインプログラム。子どもたちは大人の手を借りずに、画面の向こうのスタッフと一緒に大きな銀鮭を三枚おろしにしていきます。すると、次に驚くのは保護者の方々。「普段見たことがない子どもの姿だった」「こんなことができるなんて」と、大好評のプログラムになっていったそうです。

 とある子に、「お刺身を切るときには、食べる人の口の大きさをイメージして切りましょう」とレクチャーしたところ、家族全員の口の大きさを考えて、食べやすいサイズにお刺身を切ったそうです。また、別のご家庭では、頭や骨から出汁をとって味噌汁を作ったりするなど、それぞれの家庭が予想を超えて工夫を生み出していきました。

「体験型の施設を運営していますから、どうしてもこれまでは来てもらうことを中心に考えていました。でも、この状況になってオンラインでプログラムをやってみたところ、家庭に入っていくというイメージが生まれました。家にいながらモリウミアスでの学びに触れられることは明らかに新しい可能性ですし、子ども達の成長をさらにサポートする機会になります。」

 オンライン配信の可能性は、油井さんをさらに驚かせました。参加した子どもたちの保護者たちがプログラムの様子をSNSで発信。その影響から、これまで出会えなかった人たちとも温かくつながることができたといいます。
 これまで、モリウミアスが新しい人と出会うきっかけは、口コミやホームページ経由での新規お問い合わせ。しかし、ネットワークを介した動きは、まるで上手な人が打ったビリヤードの球のように、ひとつの行動が何人もの人を経由して広がっていくのでした。

いつものモリウミアスでは、子どもたちと保護者は分かれて過ごすことがほとんどですが、オンラインでのプログラムでは保護者が頑張る子どもたちの姿を目にして新たな気づきを得る機会にもなりました。

「もう一段上に行くために何をすべきかと考えていましたが、答えが見えた半年間でした。こちらからリーチすれば、世界中の人とだってつながれる。インターネットの可能性については知っていたつもりでしたが、思っていたよりも広く深いですね。これからはきっちりとプランを練り、能動的に展開していこうと考えています」

 新しい環境で踏み出した一歩が、予想もしなかった化学反応の連鎖を生んでいく。形は違えども、モリウミアスが日頃から大切にしてきたことが、インターネットという空間で華開いた瞬間でした。

ネガティブにならず当事者意識をゼロに。大きな潮流には、あえて身を任せる。

 油井さんはニューヨークで社会人生活を送っていた頃、9.11を体験。帰国後は子どもの職業体験施設の「キッザニア」の立ち上げに関わり、3.11の時にボランティアで石巻へやってきました。豊富な人生経験の中で、この新型コロナウイルスの時代をどう見ているのでしょうか。

「局所的ではなく、世界的な動きなので、すでにこれが日常と考えています。テロや災害と違い、来年になると一歩ずつ復興が進むものではありません。この規模のものは、自分がなんとかすればどうにかなるものではない。ネガティブな意味ではなく、今回は当事者意識がないことが特徴です」

 油井さんが町を歩いて聞いたのは、「震災と比べたら、家で食べて寝ることができるだけで、大丈夫なんだよ」という地域の人たちの声。一方で、深刻に捉えなければならない人たちもいます。たとえば実家で祖父母と一緒に暮らしているスタッフの中には、「自分が感染源になってはならない」と、休職を願い出た人もいました。

「例年、夏は特に大学生のボランティアスタッフを頼っていました。でも、今年は受け入れがほとんどできず、スタッフの数が圧倒的に足りない状況です。感染症対策の観点を第一に短期プランを組み上げましたが、スタッフの不足を解消しない限り、長期プランの再開に目処が立たない現実もあります」

 油井さんの見通しでは、今後、学校や法人の利用数は大きく減り、週末の個人利用が中心となる模様。だからこそ、来てくれた人に対してこれまで以上に学びの場を感じてもらうようにしなければならないと話してくれました。

「震災以降がんばってきた、雄勝の復興・街づくりですが、今まで積み上げた物はすべて止まってしまいました。復興も、まだまだ途上。オンラインはあくまでも入り口で、最終的には町に来て楽しんでいただきたい。街そのものの元気には、人の存在が必要不可欠ですから」

 モリウミアスが積み上げてきた「サスティナブルな未来」は、人が支えているもの。インターネット空間を加えて、より加速させていく手応えを油井さんのメッセージから感じ取ることができました。

「やってみなければわからない、気を付けながらやってくことで徐々に馴染んでいく」と語った油井さん。

●前回取材記事「MORIUMIUS」はこちらからご覧いただけます。


■ 油井元太郎(ゆい げんたろう)

1975年東京都出身。幼少からアメリカで生活し、アメリカ合衆国ペンシルバニア州レバノンバレー大学音楽学部卒業。
ニューヨークで音楽やテレビの仕事を経て、2004年に帰国し、帰国後にキッザニアの立ち上げから関わり、コンテンツをはじめとする施設の開発を担当した。2007年グッドデザイン金賞受賞。
2011年東日本大震災でのボランティア活動を通して雄勝町に出会う。震災で傷ついたこどもたちのサポートをするために地元の小中学生にアフタースクールや体験プログラムを展開。
キッザニアで培ったノウハウを地域に開き、森と海がつながる豊かな自然の中で循環する暮らしの体験ができるMORIUMIUSを設立し、フィールドディレクターとして活躍している。
MORIUMIUSは2016年にグッドデザイン賞受賞。

■ MORIUMIUS(モリウミアス)

「雄勝学校再生プロジェクト」によって旧桑浜小学校(築90年、2001年閉校)を「こどもたちの複合体験施設」として改修。全国、世界のこどもを対象に、山と海がつながる豊かな自然が残るリアス式海岸での漁業、海と密接に関連する森の生活、平らな土地の少ない中でも恵みをもたらす農業を、一次産業従事者との交流を通じて体験するプログラムを提供する。また、海、森、田畑での産物をこどもたちが料理をしたり、雄勝が誇る硯石の工芸などの体験を通じ、自然の循環やその中で生きる力(サステナブルに生きる力)を身につけることを目的としている。
MORIUMIUS :http://moriumius.jp/

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